対談

逆張りでも論破でもなく、どんな時でも「正論を言いたい」ソンタグの魅力とは?【後編】

『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』刊行記念対談
波戸岡景太×都甲幸治

どんな時でも正論を言いたいインテリ

波戸岡 ソンタグに対する評価って、ロックミュージシャンと同じで、あの年代のあれがベスト。その次はちょっとゆるいね、とか。そういう感じですよね。

都甲 それ、すごいわかる。

波戸岡 そこで今、ソンタグが神格化されるのか否かっていう地点にいるんだと思います。

都甲 確かに神格化してるわ(笑)。ごめんごめん。

『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』(集英社新書)

波戸岡 いえ。わかります(笑)。で、『スーザン・ソンタグ』で私が言いたいのは、もう1回、ちゃんと曲を聴いてみようっていうことなんです。

都甲 確かにね。ソンタグはそれこそ、学校の授業で習う感じじゃなくて、親に隠れてロックを聴くみたいな感じ。そういえば、大学のとき、授業と関係なくソンタグの本をこそこそ読んでましたね。思い出してきた。

 私は東大の表象文化論にいて、そのころはソンタグの『反解釈』を訳した高橋康也先生とか由良君美先生がいた。だからあのエリアだけ90年代になっても60年代が続いていたんですよ(笑)。60年代のノリを体現してるみたいな人たちが授業をやっていて、その中で映画とか文学とかアートとかを教えられた。それから「1行もわかんないっす」って言いたくなるようなジャック・デリダの批評とかも読んだ。

 もう90年代に入っていたから、英語圏だったらとっくにそんな時代じゃないのに、いい意味でも悪い意味でも30年くらいズレた教育を受けていた。だから波戸岡さんの『スーザン・ソンタグ』を読んで、現実に引き戻されて、自分の青春はしっかり時代とズレていたんだって気づかされましたね。

 もう少しソンタグの思い出を話すと、2001年の「9.11」の時、アメリカにいたんです。留学して1カ月目とかだったんだけど、テレビを見ていたら、ビルががーって崩れていて。ニューヨークの次にロサンゼルスに移ったんだけど、ロサンゼルスも攻撃対象なんじゃないかという噂が広まっていた。自分たちが次に攻撃されるんじゃないかっていう妄想みたいなものが全米を取り巻いていて、本当に怖かったんですよ。

 アメリカ中に恐怖感が蔓延して、テレビで日本の公共広告機構みたいなCMばっかりが流れるようになった。そのCMでいろんな人種の人が出てきて「I’m an American」って言う。愛国運動みたいになっていた。

 そんな時にスーザン・ソンタグが言ったわけですよね。「死を恐れずにテロを実行した個人よりも、遠隔操作でミサイルを飛ばして報復する政府のほうが臆病だろう」、というようなことを。

 あの時にアメリカでテロリスト擁護とも取れるようなアメリカ政府批判を言ったら、殺されるみたいな雰囲気でしたよ。だからソンタグはすごい。べつに不用意に言ったわけではないでしょう。どういうことだったんですか?

波戸岡 ソンタグは逆張りをする人なのか、炎上が目的なのか。いや、そうではなくて、どんな時でも正論を言いたい人だと思うんですよね。

 正論というのは、ソンタグにとっては相対的な話をしたいということ。でも、「9.11」の時のような非常事態に相対的な話をされると、一般の人たちはすごくムカつくんですよ。

都甲 そうだよね。ソンタグのこの発言はインテリの鏡じゃない? だって、常に「別の角度から見たらこう見えますよね」ってやるのがインテリだから。波戸岡さんが『スーザン・ソンタグ』の終章で書いていたけれど、今のインテリって流れに乗っかって、ときに人を叩くような存在でしょう。

波戸岡 そんなふうに露骨には書いてないですよ(笑)。

都甲 そう?(笑) それでバズらせてフォロワー増やして。ソンタグはそういうのからかけ離れた人、真っ当なことをやってきた人なんだと。波戸岡さんがそう書いていることに心を打たれましたね。

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プロフィール

波戸岡景太×都甲幸治

はとおか けいた

1977年、神奈川県生まれ。専門はアメリカ文学・文化。博士(文学)〈慶應義塾大学〉。現在、明治大学教授。著書にThomas Pynchon’s Animal Tales: Fables for Ecocriticism(Lexington Books)、『映画ノベライゼーションの世界』(小鳥遊書房)、『ラノベのなかの現代日本』(講談社現代新書)など。訳書にスーザン・ソンタグ『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』(管啓次郎との共訳、河出書房新社)など。

とこう こうじ

1969年、福岡県生まれ。翻訳家・アメリカ文学研究者、早稲田大学文学学術院教授。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻(北米)博士課程修了。著書に『教養としてのアメリカ短篇小説』(NHK出版)、『生き延びるための世界文学――21世紀の24冊』(新潮社)、『大人のための文学「再」入門』(立東舎)など、訳書にトニ・モリスン『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』(岩波文庫)など。

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