対談

外国人労働者政策、新型コロナ問題 「自分は知らなかった、何の罪もない」という人が変わる時、日本社会は大きく変わる

姜尚中氏×鳥井一平氏(移住連代表理事)対談 【後編】

姜尚中 × 鳥井一平
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厚生労働省によれば、日本にいる外国人労働者は2019年10月末の時点で165万8千人超。

7月24日放送の星野源と綾野剛主演の刑事ドラマ『MIU404』第5話でも外国人労働者問題が取り上げられて話題になったが、この国に「ジャパニーズ・ドリーム」を求めてやってきた彼ら彼女らの中には、「残業代の時給が300円」だったり、2年間で1日も休みがないという奴隷のような生活を強いられている人たちが大勢いる。

そんな外国人労働者を30年近く支援し続けてきたのがNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」代表理事の鳥井一平氏だ。

6月に『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』を上梓した鳥井氏と、100万部超のベストセラー『悩む力』の著者で、5月に『朝鮮半島と日本の未来』を上梓した姜尚中氏のオンライン対談の後編。
「外国人労働者とは誰か」「様々なルーツの人たちと作る日本」について引き続き、語り合った。

文・構成=稲垣 收 写真提供=三好妙心(姜尚中)、岩根愛(鳥井一平)

 

お互いを尊重し合うような条件を政治が作らないと排外主義が生まれる

鳥井 姜尚中さんや私が若い頃は、海外旅行に行くというと大変なことで、1ドル360円の時代でしたよね。ところが今の若い人にとってみると、国を超えて旅行するなんていうことは、大したことではないわけです。今はコロナ問題はありますが。この地球上を、間違いなくいろんな人が移動し始めているわけですよね。ですから、私たちが思っている以上に、いい意味での「地球的なスタンダード」が、この日本社会に入ってきていることは確かですよね。

 そうですね。

鳥井 私らの若い頃にはテレビの『兼高かおる世界の旅』でしか見たことがなかったようなものが、本当に毎日のようにいろんなネットなどの映像で入ってくるし、その気になれば自分もその国に行ける。それに、今おっしゃった料理のことでも、様々な嗜好というのが認められてきています。それは非常にいいことだと思いますね。

 しかしもう一方で、いまだに偏見もある。姜さんも出られているテレビ番組のあるコメンテーターの方が、「コロナが中国ですごく広がったのは、直箸(じかばし)文化だから」とおっしゃったんですね。でも、私は「日本人もみんな直箸やっていますよ」と思いました。

 接した時に「ニンニク臭いと韓国人、朝鮮人」というような、そういう偏見は今もある。でもそれは、共通の料理を食べるということだけでなく、もう一歩突っ込んだ、お互いを尊重し合うような条件を政治が作り出さないと、姜さんが指摘されたように、ちょっと油断すると、すぐ排外主義とか、ヘイトが生まれてくると思うんです。そうでなくても、ちょっとした違いが気になる人というのは、いっぱいいるわけですから。違いを、違いとして尊重しないわけです。

姜 それは日本だけじゃなくてドイツもそうだろうと思うし、どの国でも、アメリカでも起きているわけですから。韓国の中にもそういう人はいっぱいいます。韓国はある意味、技能実習制度を日本から学んで、僕が韓国に行っていた時は、それこそ移民労働者を搾取しまくる状況だったんですけど、この本の中で鳥井さんも言及されていたように、韓国でもユニオンが出来たり、技能実習制度をやめて「雇用許可制度」になって、中間のブローカーをできるだけ省いたりしていきました。もちろん今でも韓国の中で、朝鮮系中国人の方とか在日に対しても差別意識はあります。でも一方で、地方自治体でフィリピン系の人が議員になったりしていて、そういう点では韓国も少しは変わってきたと思います。

 ただ、まだまだ「同質性社会」という意識が強いです。だから、ある意味で日本と韓国はこういうことに関して、最もデリケートな問題を抱えた社会だと思います。

「自分たちの社会が今後どういう社会になれば、自分も緊張させられることなく、もっと面白い社会、豊かな社会になるんだろうか」と考えていけばいいのに、「外国人=トラブルメーカー」という図式が壊れないですね。

鳥井 ですから、どこかでやっぱり政治的決断が必要だと思うんです。先ほど言いましたけど、ポジティブなところとしては、人々の工夫というので、「こんなところでこんな工夫があるのか」というようなことが、それぞれの地域や職場であるんです。もう一方で、放っておくと、違いが違いとして拡大されて、ヘイト、差別になるということがある。

 それについては、強いリーダーシップの政治的決断というのが必要だと思うんです。ドイツの場合は、過去の反省を明確に政治のトップが言明する。韓国の場合には、日本の技能実習制度と同じような「産業研修生制度」をやめて、「雇用許可制」にした(2004年)。そして「非熟練労働の受入れ」とハッキリ言った。そのことによって、人々の間に意識が醸成されるわけです。

 でも日本はずっとグズグズして、技能実習生という言葉でごまかして、今度またもう一歩進まなきゃいけない時に「特定技能」などという言葉でごまかしている。全く潔さがない。しかもオールドカマーに対するいわゆる奴隷労働、徴用工の強制連行について、きっちりした謝罪をしていない、けじめをつけていない。それがニューカマーの問題に関しても、尾を引いていると思うんです。

「私たちの社会がいろんな人々によって作られている、支えられている」ということを認める政策、制度が必要だと思うんです。

 ただ、残念なことに、安倍政権では無理ですね。安倍政権ではできないですよ。これはもう断言できます。安倍首相の偏狭な思想では到底、今、地球上で起きていることを受け入れることができないだろうと思います。

 結局、最後は有権者にかかっているわけですよね。

鳥井 そうですね(笑)

姜 この問題を痛切に感じれば、政治家に「こうしてください」と言えるはずなんですけど、結局そこは堂々巡りで。

 アメリカはトランプ政権になっていろんな問題を抱えていますけど、国務省が「人身売買と闘うヒーロー」として鳥井さんをわざわざ選んで、国務長官が自ら表彰した。だから、アメリカでは、なにか反動的政策があればそれに対抗する動きも強くて、非常に問題が顕在化していると思うんです。だから、場合によっては分断や対立もあるわけですけど。

 一方、日本では、今回のコロナ対策を見ても、結局全部ズルズルと何かを付け足していくばかりで、それまでやったことへの検証がないし、検証がないから反省がない。だから、そこで次をどう作るかということについて議論がない。前に決めたことの延長線上で、新しい事態に何とかむりやり当てはめてやっていこう、というばかりで。結局、それが最後に破綻した時に、ものすごくひどい結果になったりする。その時に結局は誰も責任を取らない、というようなことになりかねない。

 先ほど鳥井さんがおっしゃったように、「特定技能」という形で外国人を受け入れるというのも、ごまかしですね。鳥井さんがおっしゃるように、枠組みを変えなきゃいけない。その枠組みを変えられるのは政治なんですね。そして、その政治を変えられるのは、有権者、国民です。ただし、世論というものは、報道だとか、いろんなものに左右されやすい。

 だから、やはり今回鳥井さんの書かれた本が、もっともっと多くの方に読まれてほしいですね。

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プロフィール

姜尚中 × 鳥井一平
 
 
 
姜尚中(カン サンジュン)

1950年熊本県生まれ。政治学者。東京大学名誉教授。鎮西学院学院長。熊本県立劇場理事長兼館長。 著書は累計100万部超のベストセラー『悩む力』とその続編『続・悩む力』『母の教え 10年後の「悩む力」』のほか、 『ナショナリズム』『姜尚中の政治学入門』『ニッポン・サバイバル』『増補版 日朝関係の克服』『在日』、 『リーダーは半歩前を歩け』『あなたは誰? 私はここにいる』『心の力』『悪の力』『漱石のことば』『維新の影』など多数。 小説作品に、いずれも累計30万部超の『母―オモニ―』『心』がある。

 

鳥井 一平(とりい いっぺい)

1953年、大阪府生まれ。特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事。 全統一労働組合外国人労働者分会の結成を経て、1993年の外国人春闘を組織化し、以降の一連の長き外国人労働者サポート活動が評価され、2013年にアメリカ国務省より「人身売買と闘うヒーロー」として日本人として初めて選出、表彰される。

 
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