対談

外国人労働者政策、新型コロナ問題 「自分は知らなかった、何の罪もない」という人が変わる時、日本社会は大きく変わる

姜尚中氏×鳥井一平氏(移住連代表理事)対談 【後編】
姜尚中 × 鳥井一平

ゴルバチョフは「自分が変わることで相手も変わる」と信じ、冷戦を終わらせた

鳥井 私もそういうふうに思っています。姜さんが本に書かれているけども、やっぱり太陽政策が大事なんですよ。太陽政策という言葉を出した、その勇気といいますか、それはすごく大切な意味があったんじゃないかと思います。

 私たちの社会の中で、市民運動や外国人支援運動など様々な運動をしている人たちがいますが、太陽政策というのがどれほど重要なのか理解できているかな、と思います。朝鮮半島の南北統一に向けた一つの道筋として太陽政策という言葉が出たということは、非常に意味があり価値があることです。だけど私たちの社会の中で、あるいは運動の中で、太陽政策の価値や役割を認識し、実践できるかということを、しみじみ思うんです。だから、私はこの本の中で「韓国に学ぶべきところがたくさんあるんじゃないか」というふうに書かせていただいたんです。

 僕が金(キム)大(デ)中()(ジユン)氏と話した時、彼が僕に言ったのは、「自分が一番偉大な政治家として尊敬しているのはミハイル・ゴルバチョフだ」と。

鳥井 あー、なるほど。

 ゴルバチョフは「自分(ソ連)が変わることで相手(アメリカ)が変わる」と信じた。「相手が変わらない限り、自分は絶対変わらない」ではなくて。

 太陽政策というのは、実は自分に対する大いなる自信と、断固とした信念がなければ、できないんだ、と。相手を生かさなければ自分は生かされない。そのために自分が変わることで、相手も変える。ゴルバチョフはそういう揺るぎない信念を持って冷戦を終わらせた、と金大中氏は僕に言ったんです。僕はそれに非常に感動しました。

 太陽政策というと、何か利他主義的で、「そんなの、いいのか」とよく言われるんだけど、それは違う、と。太陽政策は、断固とした自信の下に、結局、相手も生きるし、こちらも生きる。

 今から思えば、あの時ソ連の指導者がゴルバチョフじゃなくて、世界戦争が起きていたらどうなっていたでしょう? 地球はもう今、こんな状態ではなかったですよね。

 結局、アメリカは残念なことに自分から変わってソビエトを変えようとしたんではなくて、ソビエトのほうからゴルバチョフが出てきた。もちろんソビエトの愛国主義者は彼を「裏切り者だ」と言うかもしれないんですけど、僕は20世紀後半の最大の人物だったと思っているんです。

 そのゴルバチョフの取った政策を、金大中氏は太陽政策と言った。だから、市民運動であれ何であれ、私たちは「あなたも生きるし、私も生きる」、そういう思いで断固として進めていく、というか、それがいわゆる「共生」というものだろうと思うんです。一見すると甘ったるい言葉のように見えますけど、実は「共生」という言葉には、そういう深い意味があるわけですね。

鳥井 そうですね。

 だから、鳥井さんの本を読みながら、僕は本当に我が意を得たりと思いました。やっぱり鳥井さんでなければ、こういうふうにしてずっと実践されている人でなければ出てこない言葉というのがある。鳥井さんのような人は、そうザラにはいないと思います。

鳥井 長くやっていますからね(笑)

 だからこそ、太陽政策の意味が分かるわけですよ。僕も学生時代に朝鮮半島の問題に目覚めて、名前を日本名から今の名前に変えて、それから四十数年たって、結局「やはり太陽政策だ。これをすれば、必ず道は開ける」という結論に至ったんです。

 いわゆる移民労働の問題も、今の安倍政権は朝令暮改で、政策も継ぎはぎだらけ、目先だけ、その場しのぎでやっているようなもので、信念も何もない。だから僕も「この政権では無理だろうな」と思います。だからといって野党でうまくいくかというと、鳥井さんも気づいたと思うんですけれども、与党とか野党の問題ではないと思います。そこに目を向ける政治家は、実は与党の中にも結構いるんですよね。

鳥井 はい。

 だから、やっぱりしっかりと、人を見ていきたいというふうに思います。

鳥井 はい。全く同感です。

 しかし鳥井さんと26年ぶりにこういう話ができるなんて、嬉しいですね。

鳥井 私も今日は本当に嬉しくて嬉しくて。本当は6月に熊本でお会いする予定だったんですね。残念ながら、新型コロナ問題でできなかったんですけども。

 ああいう状況でしたから。

鳥井 今日は集英社のほうでこういう場所を作っていただいて、本当に感謝というか嬉しくてしょうがないです(笑)

姜 国を超えて人がいる。人がいるから、絶望する必要はないと、そう思いました。

鳥井 はい。

 鳥井さん、これ、ウィズコロナはいつまで続くか分かりません。でも、必ず我々が言っていることが受け継がれていくと思いますから、それを信じて今後もどうぞ頑張ってください。

鳥井 これからもよろしくお願いします。私は姜尚中さんの本をいろいろ読ませていただいて、自分自身の人生そのものについても、いろいろ考えて、共感しております。ありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました。

鳥井 姜さん、今度はどこかで、オンラインでなく、絶対直接お会いしたいので、よろしくお願いします。

 コロナが終息したら、ぜひ、酒を飲みましょう(笑)

(了)

 

 

外国人労働者と日本の未来

 

朝鮮半島と日本の未来

1 2 3 4
 前の回へ

プロフィール

姜尚中 × 鳥井一平
 
 
 
姜尚中(カン サンジュン)

1950年熊本県生まれ。政治学者。東京大学名誉教授。鎮西学院学院長。熊本県立劇場理事長兼館長。 著書は累計100万部超のベストセラー『悩む力』とその続編『続・悩む力』『母の教え 10年後の「悩む力」』のほか、 『ナショナリズム』『姜尚中の政治学入門』『ニッポン・サバイバル』『増補版 日朝関係の克服』『在日』、 『リーダーは半歩前を歩け』『あなたは誰? 私はここにいる』『心の力』『悪の力』『漱石のことば』『維新の影』など多数。 小説作品に、いずれも累計30万部超の『母―オモニ―』『心』がある。

 

鳥井 一平(とりい いっぺい)

1953年、大阪府生まれ。特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事。 全統一労働組合外国人労働者分会の結成を経て、1993年の外国人春闘を組織化し、以降の一連の長き外国人労働者サポート活動が評価され、2013年にアメリカ国務省より「人身売買と闘うヒーロー」として日本人として初めて選出、表彰される。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

外国人労働者政策、新型コロナ問題 「自分は知らなかった、何の罪もない」という人が変わる時、日本社会は大きく変わる