プラスインタビュー

父親の不在、毒親、アダルト・チルドレン…コロナ禍後の家族の行方を、信田さよ子さんに聞く

信田さよ子

ACとグループ・カウンセリングの現在地

ACとはアダルト・チルドレンのこと。もともとはアルコール依存症の親のもとで育って大人になった人を指していたが、その後、自分の生きづらさが親との関係に起因すると認めた人のことを指すように広がっていった。

信田さんは1996年に『「アダルト・チルドレン」完全理解』を出版し、この言葉を一般に広めた一人である。なお、同書は2021年に『アダルト・チルドレン――自己責任の罠を抜けだし、私の人生を取り戻す』として新版が刊行されたロングセラーになっている。

『アダルト・チルドレン――自己責任の罠を抜けだし、私の人生を取り戻す』(学芸みらい社、2021年)

ACという言葉は、子どもは親からの被害者であるということを初めて明らかにした。親子関係、夫婦関係といった家族の問題は信田さんのライフワークとも言える。

「一般的な臨床心理学って家族よりも個人なんです。もちろん少しは扱いますが、びっくりするくらい家族を扱わないんですよ。でもこんなに家族で苦しんでいるひとが多いのに、臨床心理学が家族の問題に取り組まなければ一般の人には受け入れられないだろうと思いました。

それは私の仕事の出発点がアルコール依存症だったからです。依存症の問題は、本人というより周囲の家族を苦しめるんですね。本人はとにかく飲んでいればその時は安泰なんですから。だから『まず家族を』というのが依存症の臨床では当たり前でした。そんな私から見て、臨床心理学が個人の心(内面)を扱うだけでは、不十分ではないかと思ったのです。

こうやって公認心理師であり臨床心理士である私が家族を積極的に扱うのは、私の野望だったのかもしれませんね。」

個人の病理の背景に家族がある。このことはいまでは広く共有されているが、ほんの四半世紀前まではそうではなかった。今でもそのような姿勢に対しては、「家族のせいにする」という反論も大きいのも事実だ。依存症ばかりではない、現代では多種多様な問題が起きている。しかし、家族という切り口でそれらをとらえていく視点は、今でもそれほど一般的ではない。

「お子さんに問題が起きたお母さんたちのグループ・カウンセリングでは、名門中学に合格した息子が引きこもってもう15年、20年っていう母親も参加しています。彼女自身が自分の人生って何だったんだろうって思うんですよ。世間的には子育てにて失敗したというスティグマを抱え、夫からは『過保護な母』が息子をだめにしたって責められる。子どもからはなぜ僕を産んだって責められる。ほんとうに四面楚歌ですよね。こんな中を彼女たちは生きているんです。

あまり語られませんが、問題の起きた子どもの家族に共通するのは、両親の夫婦関係が終わってるってことですね。これは本当にひどい。彼女たちは期待を裏切られてきましたので、夫はATMだと思ってます。あとはせいぜい運転手でしかない」

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プロフィール

信田さよ子

信田さよ子(のぶた さよこ)

公認心理師・臨床心理士、原宿カウンセリングセンター顧問、公益社団法人日本公認心理師協会会長。1946年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室室長を経て、1995年、原宿カウンセリングセンターを設立。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『アダルト・チルドレン』(学芸みらい社)、『家族と国家は共謀する』(角川新書)など。

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