デジタルネイティブがアップデートする新時代プロテスト

大袈裟太郎のアメリカ現地レポート③ ワシントンD.C.
大袈裟太郎

 boomer世代を煙に巻く新世代

 D.C.に着く、暑さはミネアポリス以上だった。上半身裸の男性がランニングしているし、女性たちはたいていフワちゃんのようなカッコをしていた。地下鉄がペンタゴンを通り過ぎる。沖縄北部やんばるからペンタゴンへ。名護のトーエイという作業着店で買った安いリュックを背負った男が独り降り立った。国防総省って本当に在るんだな。などとぼんやりと口を開けて、ツチノコでも見たような気分になる。

 D.C.のアパートメントは公文書館や美術館のあるあたりだった。しかしコロナの影響でどこも閉まっており、この街も静かだった。交差点ごとにまた米軍車両が睨みを利かせている。痺れそうな緊張感。この街でも先週は「暴動」があったのだ。

 荷物を置いて、街を歩く。バーガーショップはテイクアウトと野外のテーブルのみの営業だった。チーズバーガーをダイエットコーラで流し込んで予定を立てていると、別のテーブルの女の子に話しかけられる。「あなたカメラマン?」「そうだよ」「ちょっと私の写真を撮ってほしいんだけど」それは高校の同級生にでも話しかけるような気軽さだった。

 そこで彼女が取り出したのはジョージ・フロイドのスマホケースっだった。「これ私がデザインしたの。今夜の0時からインスタで売るからその告知の写真を撮ってほしい」

 なんだろう、うれしかった。ただチーズバーガーを食っているだけで、彼女がおれをレイシストではないと判断してくれたことが。

ジョージ・フロイドのスマホケースをデザインした女性

 撮った写真を編集してInstagramで彼女に送る。彼女のインスタにはバキバキに映えた写真たちと共に、マルコムXの言葉や最近のプロテストの様子が並んでいた。いわゆるZ世代の黒人女性。このBLMプロテストをとらえる上で、彼女は象徴的な存在だ。インスタ世代、デジタルネイティブ世代の台頭は香港で、そしてアメリカでもプロテストの概念をまったく新しいものにアップデートしつつある。

 香港のプロテスト最前線ではairdropで情報が飛び交ってしたし、主な連絡手段は秘匿性の高いtelegramだった。LIHKGという討論サイトでリアルタイムな意思決定が行われ、それがリーダー不在の運動を可能にした。

 アメリカではここまで、いまいちプロテストの開催予定にアクセスしづらいという疑問を感じていたが、それもあえてのものだったと気づく。プロテストの予定や情報へのアクセスをあえてハイコンテクストにすること、共通言語を持つものにしか通じないものにすることで、警察の配備を逃れるとともに、boomer世代をプロテストに関わらせないようにしていると感じた。フィルタリングしているのだ。

 boomer世代(baby boomers)とは概ね1946~1964年生まれ、第二次大戦後の出生率上昇期に生まれた世代を指す。若い頃にベトナム反戦運動を経験した世代であり、日本の団塊の世代+15年と考えるとわかりやすいかもしれない。

「OK boomer」という言葉が流行したのは2019年末だった。ニュージーランドのクロエ・スウォーブリックという25歳の女性議員の気候変動に関するスピーチに議会からヤジが投げられた。それに対して彼女が返した言葉が「OK boomer」だった。

 日本語にするなら「はいはい、ブーマー世代はお静かに」というようなものだろう。この動画が世界的に共感を呼び(バズり)、ネットミームとして定着した。Tシャツやグッズになり、TikTokなどのサイトでは、boomer世代をからかう(disる)動画があふれた。この現象を米国メディアは「世代間友好の終わり」と報じている。ただ、これはシンプルなエイジズムとは一線を画すものだ。

 NYタイムズは「変化を好まない。新しいこと、特にテクノロジー関連のことを理解しない。平等を理解しない。boomerとはそうした姿勢を持つこと。変化を苦々しく思うすべて人に当てはまる」と解説している。これは価値観をアップデートできない人々への問題提起なのだ。

 長らく社会の中心を担い、下の世代をマウンティングしてきたboomer世代から決定権を奪い取らないと、この世界はもうダメになる。そんな危機感から始まったムーブメントであり、私自身、1982年生まれのミレニアル世代としてものすごく共感できる。

 この世代間の問題提起の萌芽に、コロナウィルスの世界的流行が重なり、さらにそこにジョージ・フロイド殺害事件が起こった。これら3つの要素の化学反応によってBLMプロテストは爆発的に拡大していったと僕は考えている。

 それはデジタルパイオニアと呼ばれる僕らミレニアル世代(1981─1995生まれ)、そして、デジタルネイティブと呼ばれるZ世代(1996─2012生まれ)が、このプロテストの中心にいることからも明らかだった。

 しかし、日本に置き換えるとこの世代はゆとり世代(1987─2004生まれ)というひどく不名誉なレッテルを貼られている。そもそも大人たちが決めたシステムに沿って教育を受けただけの子どもたちをゆとり世代などと揶揄すること自体、ひどい責任転嫁なのだが…。むしろこの世代こそ、日本でも新時代へのヒントを握っていると私は感じている。日本でもSNSで政治的な声を当然のように上げ始めたのは、このミレニアル─Z世代だった。

 多くの著名人なども巻き込んだ5月の「#検察庁法改正に抗議します」。このTwitterデモの1年以上前に、すでにローラやりゅうちぇるはInstagramで辺野古の工事停止署名の呼びかけに参加している。もはやミレニアル─Z世代にとっては、Instagramで社会問題について言及することは当たり前になりつつあり、その波は国境にとらわれず日本へも波及している。Twitter内の情勢も、初期のホリエモンに代表される2ちゃんねる世代の冷笑姿勢から、インスタ世代のボリュームが増加することで、社会問題への姿勢は大きく変わりつつある。

 今、この社会の「呪い」を解く鍵を握っているのはインスタ世代なのかもしれない。ゆとり世代諸君、自己肯定感を上げていこう。「OK boomer」を合言葉に、理不尽なマウンティングを跳ねつけて、社会をアップデートする時だ。

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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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