デジタルネイティブがアップデートする新時代プロテスト

大袈裟太郎のアメリカ現地レポート③ ワシントンD.C.
大袈裟太郎

 昼のホワイトハウス前は、夜の光景とはうって変わってにぎやかで、ほほえましいものだった。

 ホワイトハウスへ繋がる正面の路面には大きく、blacklivesmatterとペイントされており、交差点の名称も正式にブラック・ライブズ・マター・プラザと改められた。これはD.C.のバウザー市長の権限によるものだ。

ブラック・ライブズ・マター・プラザは観光地と化していた

「米国では平和な集会を開き、政府に抗議し、変革を求めることができる」

 この若き黒人女性市長の言葉は、多くの市民に肯定感を与えた(ワシントンD.C.は人口比率で黒人・アフリカ系が50%を占め、なんと白人は38%という珍しい地域でもある)。さらにはバウザー市長は連邦軍の市内からの撤退を国防総省に対して求め、1000人以上の米兵を市内から撤退させることに成功した。これに対しトランプはTwitter上で「バウザーは無能だ」と罵り、FBI、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)、DEA(麻薬取締局)、刑務所局、国境警備局、移民関税執行局などの軍以外の組織をD.C.に数千人動員したと言われている。

 日本の国会前に大きく「ヘイトスピーチは違法です」と書かれたようなものだと例えると、その凄みは伝わるだろうか? ホワイトハウスへの道のりは多くの市民があふれ、音楽が鳴り、露店が出て、次から次に人々が集まってくる。BLMのロゴの入ったTシャツやマスク、飲食の露店もある。手にアルコールを吹きかけてくれるボランティアまでいる。まるで浅草の雷門から仲見世通りかのごとくにぎわっていた。

驚くほどかっこいいバンドが音楽で盛り上げる

 そこに来てセルフィーを撮りInstagramにアップするだけでプロテストになる。プロテストの概念も自分の中で大きくアップデートされた。マーチ(行進)、オキュパイ(占拠)、レノンウォール(メッセージを貼りまくった壁)など数々の表現、アート、演説、ペインティング、踊りや歌。それらのコミュニケーションの総称がプロテストなのだと気づかされる。

ここに集ってセルフィーを撮ること自体がプロテストになっている

音楽に合わせて踊りほほえむ女性。これもプロテスト

 そしてここに集うことで人々はエンパワーメントされていく。自分は独りではない、国家という圧倒的な権力に抗議をすることは奇妙なことではない。当然の権利なのだ。それを確かめ合うことでまた、それぞれ個人たちが洗練されていく。自由にやっていいのだ、自分らしく、自分に向いたことをやればいいのだ。前向きなバイブレーションが人々をつき動かしていた。ここは勇気の湧く源泉のようだった。

 音楽にノッて踊っている人々にカメラを向けると皆、笑顔でポーズを切ってくる。そしてたいていの女性が言うのだ。「インスタやってる? あとで送って」と。高校の同級生にでも話しかけるようなあの気軽さで。

 そこで初めて日本国籍の記者の女性と出会った。いわゆる日本人と出会うのはこのアメリカ取材で実は、後にも先にもこの方だけなのだが、この人が沖縄出身のウチナーンチュであることにまた不思議な縁を感じた。

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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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