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大袈裟太郎のアメリカ現地レポート③ ワシントンD.C.

大袈裟太郎
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 しかし夜が近づくと、雰囲気はまた尖ってくる。黒人差別の歴史と女性の権利についてスピーチをしていた女性に、上半身裸の男性が奇声を発しながら襲いかかるのを目撃した。そのまま騒ぎになり、彼はホワイトハウス正面へ逃げていった。彼はこの場所にテントを張り暮らす男性で、常に大麻でハイになっており、この件の前から、突飛な言動を繰り返していた。彼がホワイトハウス前のシークレットサービスに引きずられていく。なぜ逮捕に至ったのかは、混沌の中でよくわからないが、この逮捕に抗議してプロテスターたちが警官と揉み合いになる。動画でもわかるように、熱くなる白人男性を止めているのは黒人女性だった。

 そして、この件がその後、プロテスター同士の揉め事に発展する。連行された上半身裸の男性がいた男性グループと、彼に襲われた女性グループが路上で論争を始めたのだ。男性グループは皆、大麻でハイになっている様子だし、何よりマイクを女性グループに渡さない。これは公平ではないと、僕も思わず声を上げてしまった。「PASS・DA・MIC」(本来、DAではなくてTHEのはずだが、そこは僕もラッパーである。彼らがTHEではなくDAと発音することを知っていた)

 僕のコールにより、女性たちが「PASS・DA・MIC」コールを始めた。これでマイクは女性たちの手に渡ったが、その後、僕は男性グループの方から睨みつけられ、映像を止めろなどと詰め寄られた。これには肝を冷やしたが、その時、守ってくれたのもやはり女性たちだった。

夜になっても人々は途絶えない

「NO Justice NO Peace(公平でなければ平和はない)」と叫んでいるのに、自分たちはマイクを渡さない。公平に行動していないことが許せなかった。それで思わず叫んでしまった。黒人差別のさらに内部に、女性を軽視する風潮(無自覚のミソジニー)があることも肌で感じた。

 後に、この現場にいたウチナーンチュの女性記者から言われた。「太郎さん、あなたあの時、インスティゲイターだと思われていて、私が彼はそうじゃないとあわてて説明したんですよ。あのグループにはギャングもいるから、危なかった…」。

 インスティゲイターとは煽動者のことだ。米国内のプロテスト現場でその存在は問題視されていた。より暴力的に対立を煽動し、為政者の有利になるように現場を混乱させる存在。これに間違われていたとしたら、きっとかなり危ない目にあっていただろう。昨年、香港の最前線で僕の着ているベストに書いてある「記者」の文字が中国で使う漢字の簡体であることを不審に思ったプロテスターに胸ぐらを掴まれたことがあったが、それどころじゃ済まなかったはずだ。遠くワシントンD.C.まで来て、またウチナーンチュに救われたことに震えた。帰ったら、沖縄の海に手を合せようと思った。

 また、プロテスト現場での大麻使用についても疑問を持つようになった。日本だと違法か解禁かの二元論にしかならないが、これは一歩先の話だ。今日の揉め事の発端となった男性が大麻でぶっ飛んだ状態だったこと、その後の議論の場でも男性グループは大麻でハイになり議論が成立していなかったこと。昨日、僕自身、副流煙で酩酊したこと。

ホワイトハウスを見つめる男性

 それを考えるとプロテスト現場での大麻の在り方について問題を感じざるを得なかった。まあ、何事もやりすぎは良くないのだ。酒であっても、砂糖であっても、摂取しすぎは良くないだろう。スイカジュースであっても飲み過ぎるとカリウム過多で倒れるのだ(フワちゃんのYouTubeで見た)。合法か非合法か以前の別の観点について考えながら、歩いてアパートメントへ帰った。歩道の草むらに蛍が瞬いていた。D.C.の街なかには蛍がいることをその日、初めて知った。

 宿に帰りCNNをつけると、アトランタが燃えていた。また警官が黒人を射殺したのだ。最悪だ。現実とは思えないほどの衝撃が走った。

 Rayshard Brooks(レイシャード・ブルックス)は2020年6月12日、ジョージア州アトランタ南西部のウエンディーズの駐車場に留めた車の中で眠っていた。白人警官が職務質問し飲酒検査をするとアルコールの反応が出た。そして揉み合いになり射殺された。その映像も一部始終がSNSを駆け巡った。

 燃え上がっているのはウエンディーズだった。人々の暴れる様子も生放送で映し出された。テレビの前で愕然としていると「冗談でしょ? アトランタが燃えているよ…」と、昼にインスタを交換したある女性からメッセージが来た。「ああ、最低だよ。何もかも最低」。そう返した。数分後、彼女がある動画を送ってきた。

 ニーナ・シモンの「Ain’t Got No,I’ve Got Life」の動画だった。

 Yeah, what have I got  そう、私は持っている

 Nobody can take away 誰も奪い取れないものを

 燃えるアトランタを見つめながら、その歌を繰り返し聴いていた。その夜、おれは声を出して泣いた。

 

取材・文・写真/大袈裟太郎=猪股東吾

(つづく)

 

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プロフィール

大袈裟太郎

大袈裟太郎●本名 猪股東吾 リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 
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