シリアへの軍事攻撃、米朝首脳会談をめぐる発言など、トランプ政権の外交的動きが日本のマスコミでは連日報道されているが、実はそれよりもっと重大な動きが、この2週間、米国内で起こっていた。トランプに不当に解雇されたコミー前FBI長官の回顧録が発売されたこと、そしてトランプ政権誕生の“黒い”舞台裏を知る顧問弁護士がFBIの捜査を受けたことだ。
これらの動きは、今後トランプ政権にどのようにダメージを与えるのか。『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』の著者である矢部武氏が解説する。
トランプ政権が劇的な展開をたどった、この2週間を振り返ってみよう。まず4月9日、FBIがトランプ大統領の顧問弁護士であるマイケル・コーエン氏の自宅と事務所を家宅捜索した。「トランプ氏を守るためなら何でもする」と言われる「フィクサー役」のコーエン氏が当局の捜査対象となったことで、トランプ大統領はますます追いつめられることになるだろう。
大統領は自身の問題から国民の目をそらそうとするかのように、米国東部時間の13日夜、シリアが化学兵器を使用したとして、イギリス、フランスとともにアサド政権の化学兵器関連施設への軍事攻撃に踏み切った。国連の安保理決議や米国議会の承認を得ていなかったが、トランプ大統領は「化学兵器の製造・拡散・使用を抑止するための行動だ」と正当化した。
そして17日には、トランプ大統領に不当に解任されたコミー前FBI長官が回顧録を出版。「トランプ氏は嘘つきで、道徳的に大統領に不適格だ!」と厳しく糾弾したのだ。これらの出来事を検証しながら、「トランプ弾劾・解任への道」をさぐってみよう。
「マフィアのボスの儀式のようだった」
ジェームス・コミー前FBI長官の回顧録『A Higher Loyalty(より高き忠誠心)』は、4月17日の発売前からアマゾンでベストセラーになるなど、関心の高さをうかがわせた。コミー氏はその中で、解任される前のトランプ大統領との夕食会での会話や、忠誠を求められたことについて明らかにした。
「大統領は“忠誠が必要だ。忠誠心を期待する”と何度も言った」とし、コミー氏は心の中で、「まるでマフィアのボスの儀式のようだと思った」と書いている。コミー氏は検察官時代にニューヨーク・マフィアの捜査にも関わっていたためマフィアの内情には詳しいのだが、その彼が大統領をマフィアのボスに例えたのだ。また、トランプ政権を山火事にたとえ、「米国の基準や伝統が焼き尽くされる恐れがある」とも述べている。
プロフィール
矢部武(やべ たけし)
1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。