高額療養費制度〈見直し〉案凍結から4ヶ月。いよいよ解凍に着手した政府の動きと、専門委員の妄言を検証する

高額療養費制度を利用している当事者が送る、この制度〈改悪〉の問題点と、それをゴリ押しする官僚・政治家のおかしさ、そして同じ国民の窮状に対して想像力が働かない日本人について考える連載第7回。
制度を利用する当事者たちの声を聞かずに一方的な自己負担上限額の引き上げを狙った結果、昨年末に政府が提示した高額療養費制度〈見直し〉案は世論の猛反発を受けて、3月に一時凍結された。その凍結された制度のさらなる〈見直し〉は、政府が目指す今年秋の方針決定に向けて少しずつ「解凍」されはじめているようだ。
高額療養費制度に関する話題は、3月の凍結以降、マスメディアで取り上げられる機会が大幅に減少した。その一方で、がんや難病の当事者団体の精力的な要望活動が奏功して衆参議員120名以上が参加する超党派議連「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」が結成され、厚労省は社会保障審議会医療保険部会の下に「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置。5月末には、第1回の会議が開催された。このような関係各所の様々な動向は、5月末に公開した当連載記事の第6回にまとめたとおりだが、その後、6月に入って政府側や超党派議連、専門委員会など、それぞれの動きが少しずつ活発化しはじめている。
まず、6月6日には「経済財政運営と改革の基本方針」(通称「骨太の方針」)の原案が内閣府から公表され、13日にはそれが正式に閣議決定された。この「骨太」方針には「高額療養費制度について、長期療養患者等の関係者の意見を丁寧に聴いた上で、2025年秋までに方針を検討し、決定する」という一文がある。3月の凍結当初から首相談話や審議会での厚労省側コメントなどで政府側が主張し続けてきた「秋の方針決定」という姿勢に沿った文章で、政府側の姿勢をここでも改めて強く念押しした、ということだろう。まったくの余談だが、小泉純一郎時代の2001年に始まったこの「骨太」という自画自賛の名称を様々なニュースや記事が無反省に流用し続けるのは、メディアの批判精神が「骨抜き」にされている象徴的な事例であるように思う。
この閣議決定から4日後の6月17日には、超党派議連「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」の第4回総会が行われた。この超党派議連は、第1回(3/24)の設立総会を衆議院第一議員会館の多目的ホールで行った際に80数名の議員が集まり、第2回も同会館多目的ホールで実施。このときは立教大学安藤道人教授を招いて講演を行い、多くの議員が参加して活発な質疑応答が行われた。5月の第3回総会では、参議院議員会館の40~50名収容程度の中規模会議室に場所を移したが、会場は満席で、日本乳癌学会理事長石田孝宣氏と東大大学院五十嵐中准教授の講演が行われた。
第4回総会は、ふたたび参議院議員会館の大きな会議室で開催された。この日現在での議連参加議員は128名(自民:衆4・参7、公明:衆1・参5、立憲:衆59・参11、維新:衆10・参1、国民:衆11・参1、れいわ:衆2、共産:衆6・参9、社民:参1)とかなりの人数だが、当日の総会参加議員数は、ざっと見た限り途中参加や途中退室なども含めて30名もいない様子で、過去3回と比較するとかなり少なかったような印象があった。国会会期末や参院選が近いことなど、議員それぞれに事情はあったのかもしれないが、この参加人数の少なさは正直なところ気になった。メディア露出等を通じた有権者へのアピールが立ち居振る舞いに直結する議員独特の現金さや打算が、はからずもこの参加人数に現れていたようにも見える。

ともあれ、この第4回総会では、翌週に厚生労働大臣へ申し入れるという「論点整理」を行い、細部の修正は事務局一任で了承した。その論点整理の内容は、以下のとおり。
- 制度変更により多大な影響を受けることが見込まれる患者等への意見が充分に反映されるようにするとともに、療養費用の家計への影響や必要かつ適切な受診への影響について分析し、その結果を社会保障審議会医療保険部会高額療養費制度の在り方に関する専門委員会での制度変更の検討に用いられるようにすること。
- 専門委員会での検討は、保険とは「大きなリスクに備える」ものであり、高額療養費制度は「最後のセーフティネットとして保険の根幹を成す優先すべきものであることを踏まえ、保険者、医療の担い手等の関係者から十分に意見を聴いた上で、慎重かつ丁寧に進めること。
プロフィール

西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。