カルチャーから見る、韓国社会の素顔 第12回

チョンセと再開発――不動産階級社会としての韓国

伊東順子

ドラマ『賢い医師生活』、映画『パラサイト』、小説『こびとが打ち上げた小さなボール』、小説『野蛮なアリスさん』

 

 1年ぶりに日韓を行き来した。パンデミック下の海外渡航は、2度のワクチン接種、隔離免除申請、72時間以内の陰性証明書等々、準備するものが多くて大変だ。それでも行かねばならぬ用事があった。

 まずは8月末が期限だった役所関係の手続きを済ませ、あとはいくつか仕事のミーティングをした。このご時世、楽しいことなどは、あまりできない。韓国政府のコロナ対策は日本よりはるかに厳しく、今は私的な集まりにも人数制限がある。昼間は4人、夜は2人まで。なので「みんなで集まってワイワイ」みたいなことはできない。

 それでも個別に会った人々の話は十分に刺激的だった。特に「不動産の話」。

 「あの時、無理して買っておいて本当によかった」

 「7億で買った家が今は16億よ」

 「うちのマンションは上がりすぎて取引停止になった」

 「あそこのダンナ、家庭も顧みずに投資に打ち込んだかいがあったよね……」

 コロナ禍、世界中の大都市で不動産価格が高騰しているが、韓国はその中でも突出している。ソウルのマンション価格は4年前の約2倍にもなった。たとえば80平米ほどのマンションの平均価格が、日本円換算して6000万円から1億1000万円にまで、ドーンと上がった。

 「バブルなんじゃないですか? そのうちに弾けるのでは? 日本みたいに」と言われ続けてきたが、韓国は「不動産不敗神話」のある国だ。「今度こそ下がる」という予想は常にはずれてきた。

 なぜだろう?

 韓国で家は「住まい」であると同時に、自分が属するステータスを表し、またそのステータスを上げるための装置にもなる。たとえ上がれなくても、下がることは誰も望まない。皆が必死で下支えするのである。

 韓国の人々にとって不動産が日常的なテーマであるのは、ドラマや映画、特に文学作品などに接する人々は気づいていると思う。

 「チョンセという言葉が出てくると、そこから一気に展開が暗くなるような……」

 そんな感想も聞いたことがある。

 不動産の話は重要な環境設定。まるで季節や天候のように、暑かったり、寒かったり、突如として襲いかかる台風のようなものだったり。

 ここでは「エリート医師でも騙されるチョンセの罠」(ドラマ『賢い医師生活』)、「その格差はどこまでリアルなのか?」(映画『パラサイト 半地下の家族』)、「不動産階級社会の起源と連続」(『こびとが打ち上げた小さなボール』『残酷なアリスさん』)と、韓国の不動産問題を順番に考えてみたい。

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 第11回
カルチャーから見る、韓国社会の素顔

「愛の不時着」「梨泰院クラス」「パラサイト」「82年生まれ、キム・ジヨン」など、多くの韓国カルチャーが人気を博している。ドラマ、映画、文学など、様々なカルチャーから見た、韓国のリアルな今を考察する。

プロフィール

伊東順子

ライター。編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、斎藤真理子訳)の解説を担当。

 
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チョンセと再開発――不動産階級社会としての韓国