「疎外感」の精神病理 第3回

疎外感恐怖の現象学

和田秀樹

炎上恐怖のサイバー空間

 

 SNSなどのサイバー空間でも、友達が多いほどいい、空気が読めないと袋叩きにあうという状況が現実生活をさらに拡張した形で生じています。

 インスタ映えにしても、フェイスブック上の友達の数やツィッターのフォロワーの数を競うことにしても、どちらかというと「あっと驚いて」感動してファンになるというより、周囲の言いたいことを代弁してくれるようなものが人気を集めます。

 確かに有名になればいいという迷惑系ユーチューバーといわれる人たちはいますが、嫌われることを覚悟で、自己主張を書くという人は少数派のように思えます。

 若者は確かにテレビをみなくなりましたが、テレビに出ている芸人がネットの世界でもスター扱いされ、無難な意見を言う人が昔より増えたように思えてなりません。

 本来ネットの世界は、多様な意見に触れ、自分の本音に近い人、自分と考え方が似ている人を探す場のはずです。しかし、たとえばコロナ禍であれば、自粛をしない人やコロナが怖くないと主張する人を袋叩きにする場となり、ウクライナ問題であれば、ロシアにちょっとでも肩をもつ意見を唱えると炎上するという印象が強いのは、私の偏見でしょうか?

 ネット空間も、テレビと同様の無難なマジョリティの意見に斉一化され、異論が排除されているのが日本の現状といえるようです。

 いずれにせよ、炎上覚悟で過激な意見が言えるのは、自分に相当な自信をもつごく少数派です。その中で受けのいい人は、スクールカーストの1軍のようになれるかもしれませんが、多くの場合、3軍扱いされて「いじめ」の対象のようになります。

 何かネット民に反感をもたれるようなことをすると(なぜ反感をもたれるのかの基準がKYと比べてあいまいなのですが)、激しい罵声を浴びせられ、それに同調する人が増えると、ひどいトラウマになってしまいます。

 かくして自殺者まで出てしまうのですから、一般の人が炎上恐怖を覚え、言いたいことを言うより、無難に「いいね」を求めるのは当然の流れかもしれません。

 いっぽう、無難な発信を続け、一定数「いいね」をもらったり、ネット上の「友だち」が増えたりすれば、疎外感が軽くなるのも事実です。

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「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

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