「疎外感」の精神病理 第3回

疎外感恐怖の現象学

和田秀樹

友達は多いが、親友がもてない

 

 疎外感恐怖の解決法はおおむね二つあるでしょう。

 一つは、前述のような形で表面的な友達を増やし、自分が仲間外れにされていないということを実感すること。

 もう一つは、自分の本音を受け入れてくれる親友をみつけて「1人じゃないんだ」という安心感を得ること。

 もちろん、ほかにもいろいろあるでしょうが、通常はこういうものだと思います。

 ただ、私は前者の解決法には違和感があります。

 表面的な友だちでもいいから数を増やすという方法は、最初は疎外感を感じなくはなりますが、いずれ友だちに嫌われたくない、馴染まなければならないという同調圧力が働きます。そして、ますます自分の本音が誰にも打ち明けられなくなるという状況に陥るためです。

 精神分析の世界では、親友は親以外に初めて自分の秘密を打ち明ける対象と考えられています。

 子ども時代は、親との一体感が強く、なんでも話せます。この時代のケンカは「お前の母さんデベソ」というようにお前の母さんを攻撃すればお前を攻撃することになるのです。

 ところが思春期になると性的なことを含め、親に言えない秘密が出てきます。

 それを「こいつなら信頼できそう」と思える人間に打ち明けて、「実は俺も……」という風になって、なんでも言い合える関係になるのが親友です。

 ところが思春期になっても、人と違ったことをいうと嫌われる、仲間外れにされると思っていては、親友を見つけ出して、自分の内面を打ち明ける勇気がなかなかもてません。

 オナニーを始めたなどという性的なことであれば、恥ずかしいことだけど、おそらくみんなもしているから打ち明けられるかもしれませんが、自分の本音のようなものは、みんなと違うと仲間外れにされるという疎外感恐怖からなかなか打ち明けられないのです。

 かくして、友達は多くても、親友がもてないということになります。

 怒りでも、ネガティブな感情でも、みんなが表明しているものなら、安心して攻撃的になれます。炎上している相手に、普段見せないような激しい攻撃性を見せることができるのは、みんなも同調しているという安心感があるからでしょう。一緒に怒っている人に嫌われたくないから、自制も効かなくなります。

 マジョリティに合わせているうちに、自分の本音が何なのか、周りに合わせているだけなのかわからなくなることもあるでしょう。そして、疎外感恐怖の中で、ますます本音を打ち明けることが困難になり、本音をいう相手もみつからなくなるのです。

 たとえば恋人ができたり、配偶者ができたりして、やっと本音が家庭の中で言えるのなら幸せなのですが、家庭の中でも嫌われないように無難を続ける人も多いようです。

 疎外感恐怖が今の日本を、とくに若い人たちを動かしているというのが、私の杞憂であることを願っています。

1 2 3 4 5 6
 第2回
第4回  
「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

関連書籍

受験学力

プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

疎外感恐怖の現象学