ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説 第3回

古谷敏を「本当のウルトラマン」にした脚本家の深い言葉

古谷敏×やくみつる

やく 前半の砂煙攻撃なんですけど、砂が目に入ったりしてます?

古谷 入ってます。小さい砂がマスクの目の穴から入ってきていましたね。本来ならば、そこでカットがかかってもよかったのに、そのまま撮影が続いて。涙目になるし、これはしんどいな、キツいな、と思ったのですけど、監督からのカットがかからない(笑)。仕方ないな、やるしかないか、と腹を括りました。

やく 途中、アントラーのハサミをへし折ったのも、戦いの流れに沿って……ということになりますか。

古谷 ええ。なにせカットが入らなかったので。一応、あのハサミには事前に筋を入れてあったんですね。折れやすいように。

やく 聞かなかったことに(笑)。

古谷 でも、ここで折れ、という指示はありませんでしたし、戦いの流れの中で自分が判断したんです、ここで折るぞって。

やく 今の証言を踏まえ、改めてお聞きしたいのですが、以前にウルトラマン関連のムック本で、古谷さんとアントラーのスーツアクター、荒垣輝雄さんが談笑されている写真を拝見したことがあるんですね。

古谷 ああ、はい。

やく そういう撮影の合間の時間に荒垣さんと演技プランを話し合ったりしていたのでしょうか。例えば、自分がこう動き、このタイミングでアントラーのハサミを折るよ、みたいな打ち合わせというか。

古谷 とくにはなかったかな。

やく それでも阿吽の呼吸で?

古谷 もちろん撮影前に特殊技術の責任者だった、高野宏一さんと荒垣さんと僕とで全体的な戦いの流れのようなものは話し合い、確認をしていますが、あとはもう大雑把。さきほども言いましたように、すべては自然の流れに任せたまま。

やく それこそ時代劇ですと、殺陣師の方が“あなたはこちらから斬りつけて、こちらの人はその刃をかわしつつ、右回りに相手の背中に忍び寄る”といった指示を出しますよね。

古谷 そういう指示、殺陣師がいなかったから逆によかったんじゃないですか。いま、やくさんとしゃべっていて、ふとそう思いました。

やく なぜ、よかった、と?

古谷 ウルトラマンには模倣すべき前任者がいなかったんです。成功例があればね、それを参考にしながら、戦いにおける動きなどを作り上げることができたはずですけど、ウルトラマン以前には誰もいなかった。

ホシノ その前は『鉄腕アトム』とか『鉄人28号』とか、アニメ作品になってしまいますものね。

古谷 ええ。やっぱりアニメの動きと実写の動きは全然違いますし、参考にはならない。『月光仮面』は等身大だし、アメリカの『スーパーマン』の動きとも違う。本当に参考になる作品がなかったんですよ。

やく それまではゴジラのスーツアクター、中島春雄さんらが試行錯誤を繰り返して、例えば動物園の猛獣の動きを観察しながら、怪獣の動きなどはある程度、確立されていましたが、巨大ヒーローの軽快な動きを表現していたスーツアクターはいらっしゃらなかったし。

古谷 そのとおりです。最初の打ち合わせでね、僕は訊いたんです、制作側に。「ウルトラマンって何?」

ホシノ それはまた、ストレートな問いかけで。

古谷 いや、本当にそう訊くしかなかったんですよね、資料的なものも渡されていなかったし。そうしたら「宇宙人だよ」と言われ、それもまた、漠然としすぎて何が何だかよくわからなかった(笑)。

やく 宇宙人と言われても、昔の宇宙人というと、タコのような火星人になっちゃいますもんね。それじゃまったく参考にならない(笑)。

古谷 それでどうしたもんかと脚本を担当していた金城哲夫さんに相談したんですね。僕の困り果てた顔を見た金城さんは、こう言ってくれました。「マスクを着けてスーツの中に入り、背中のチャックを閉めた瞬間、古谷敏はウルトラマンという宇宙人になる。だから、キミの動きがウルトラマンの動きだし、ウルトラマンの動きはキミそのものなんだ」とね。

ホシノ くぅぅぅ、深いお言葉!

古谷 そうアドバイスを受け、じゃあ自分の思ったように動けばいいんだ、戦えばいいんだと思えるようになったんです。そういう意味も含め、さきほど殺陣師がいなくてよかったと言ったんですよ。もし、殺陣師が決戦のシーンを取り仕切り、僕にこうやって動いてほしいとか、この場面でアントラーのハサミをへし折ってくれだとか指示するような現場だったら、ちょっとやる気を失っていたかも知れない。つまり、殺陣師がいれば、ウルトラマンは別に僕じゃなくてもよかったんじゃないか、と思ったかも知れません。誰かアクションに長けた別の人がウルトラマンをやればいい、そんな生意気なことを思ったかも知れない。

 前回も言いましたように、ウルトラマン開始直後はまだ、わだかまりがあったというか、僕は顔を出す役者を諦めたわけではありませんでしたから。でも、金城さんのアドバイスを受けて、自分なりのウルトラマンを作れるんだと、そういうふうに考えられるようにもなりましたね。

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プロフィール

古谷敏×やくみつる

 

古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。

 

やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。

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古谷敏を「本当のウルトラマン」にした脚本家の深い言葉