格調高い反対意見
赤坂 そう考えると、三浦裁判官の反対意見は堂々としていて論も尽くしており格調高い。馬奈木さんは「判決文のかたちで書かれた反対意見を初めて見た」とおっしゃっていました。それだけのキャリアの中で「初めて見る」とは相当なことだと思います。そしてこちらの方が本当の判決文みたいです。
馬奈木 同感ですね。通常、反対意見はその裁判官の言いたいことだけを簡潔に書くものなんですが、三浦判事の反対意見は先にも説明したように法令の趣旨、目的をていねいに説明することから始まって、高裁判決の事実認定をふまえた事実の確定、法律の適用、そして結論という法的3段論法によって構成されている。だから、どうしても分量が長大となり、法廷意見である多数意見がわずか4ページなのに対して、30ページにもなってしまう。きわめて異例で、僕はこんな判決文の体裁をとった反対意見、これまでに見たことがありません。
赤坂 やっぱり、かなりこの反対意見はかなり異例のものだったんですね。
馬奈木 赤坂さんが格調高いと言うのは当然で、私たち原告団が求めていたことがまさにこの反対意見にきっちりと書かれているんです。2014年に大飯原発の運転差し止めを命じる福井地裁の樋口英明裁判長が、原発を停止すると電力供給の安定性やコストの上昇をもたらし、国富の流出につながるという電力会社側の主張に対し、「それを国富の流出や喪失というべきでなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富である」という判決文を書いて話題になりましたが、この三浦反対意見はその樋口判決に勝るとも劣らない名判決だと思っています。この反対意見で、もっとも重要だなと私が思う部分は以下の記述です。
「本件技術基準(注・原発の安全基準の意)は、原子炉設置者による電気供給等の事業活動を制約する面があり、それが電気供給を受ける者の利益にも影響し、ひいては国民生活及び国民経済の維持、発展にも関係し得るものであるが、他方において、原子炉施設の安全性が確保されないときは、数多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼすなど、深刻な事態を生ずることが明らかである。生存の基礎と人格権は憲法が保障するもっとも重要な価値であり、これに対し重大な被害を広く及ぼし得る事業活動を行う者が、きわめて高度の安全性を確保する義務を負うとともに、国が、その義務の適切な履行を確保するため必要な規制を行うことは当然である。原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがある場合において、電気供給事業に係る経済的利益や電気を受給するものの一般的な利益等の事情を理由として、必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」(判決文p34より)
馬奈木 これは要するに、何よりも住民の安全が大切で、事業者や企業の経済的利益と、住民の生命や健康を天秤にかけてはならない、安全性が確保されないままで原発を運転してはいけないということを言っているんです。しかも、その根拠を関係法令だけでなく、憲法から説き起こしている。「国が想定に基づいて東電に対策をとらせたとしても、大量の海水が主要建屋に侵入して、同様の事故が起きた可能性が高いから、国に責任はない」と結論づけた多数意見=法廷意見の稚拙さと比べると、何とも格調が高い!