赤坂真理 なきものにされることへの物語り 第2回

生業訴訟「最高裁判決」のまやかし部分を徹底解剖する

赤坂真理×馬奈木厳太郎

格調高い反対意見

赤坂 そう考えると、三浦裁判官の反対意見は堂々としていて論も尽くしており格調高い。馬奈木さんは「判決文のかたちで書かれた反対意見を初めて見た」とおっしゃっていました。それだけのキャリアの中で「初めて見る」とは相当なことだと思います。そしてこちらの方が本当の判決文みたいです。

唯一の反対意見であり、全54ページ中30ページにわたる格調高い判決文を書いた三浦守判事(写真:共同通信社/ユニフォトプレス)

馬奈木 同感ですね。通常、反対意見はその裁判官の言いたいことだけを簡潔に書くものなんですが、三浦判事の反対意見は先にも説明したように法令の趣旨、目的をていねいに説明することから始まって、高裁判決の事実認定をふまえた事実の確定、法律の適用、そして結論という法的3段論法によって構成されている。だから、どうしても分量が長大となり、法廷意見である多数意見がわずか4ページなのに対して、30ページにもなってしまう。きわめて異例で、僕はこんな判決文の体裁をとった反対意見、これまでに見たことがありません。

赤坂 やっぱり、かなりこの反対意見はかなり異例のものだったんですね。

馬奈木 赤坂さんが格調高いと言うのは当然で、私たち原告団が求めていたことがまさにこの反対意見にきっちりと書かれているんです。2014年に大飯原発の運転差し止めを命じる福井地裁の樋口英明裁判長が、原発を停止すると電力供給の安定性やコストの上昇をもたらし、国富の流出につながるという電力会社側の主張に対し、「それを国富の流出や喪失というべきでなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富である」という判決文を書いて話題になりましたが、この三浦反対意見はその樋口判決に勝るとも劣らない名判決だと思っています。この反対意見で、もっとも重要だなと私が思う部分は以下の記述です。

「本件技術基準(注・原発の安全基準の意)は、原子炉設置者による電気供給等の事業活動を制約する面があり、それが電気供給を受ける者の利益にも影響し、ひいては国民生活及び国民経済の維持、発展にも関係し得るものであるが、他方において、原子炉施設の安全性が確保されないときは、数多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼすなど、深刻な事態を生ずることが明らかである。生存の基礎と人格権は憲法が保障するもっとも重要な価値であり、これに対し重大な被害を広く及ぼし得る事業活動を行う者が、きわめて高度の安全性を確保する義務を負うとともに、国が、その義務の適切な履行を確保するため必要な規制を行うことは当然である。原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがある場合において、電気供給事業に係る経済的利益や電気を受給するものの一般的な利益等の事情を理由として、必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」(判決文p34より)

馬奈木 これは要するに、何よりも住民の安全が大切で、事業者や企業の経済的利益と、住民の生命や健康を天秤にかけてはならない、安全性が確保されないままで原発を運転してはいけないということを言っているんです。しかも、その根拠を関係法令だけでなく、憲法から説き起こしている。「国が想定に基づいて東電に対策をとらせたとしても、大量の海水が主要建屋に侵入して、同様の事故が起きた可能性が高いから、国に責任はない」と結論づけた多数意見=法廷意見の稚拙さと比べると、何とも格調が高い!

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プロフィール

赤坂真理
東京都生まれ。作家。2012年に天皇の戦争責任をアメリカで問われる少女を描いた小説『東京プリズン』(河出書房新社)が反響を呼び、戦後論の先駆けとなった。同作で毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞を受賞。その他著書に「象徴とは何か」と問うた『箱の中の天皇』(河出書房新社)『ヴァイブレータ』(講談社文庫)、『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)、『愛と性と存在のはなし』(NHK出版新書)などがある。
馬奈木厳太郎
馬奈木厳太郎(まなぎ いずたろう) 1975年、福岡県生まれ。東京合同法律事務所所属。福島原発事故の被害救済訴訟「生業訴訟」の弁護団事務局長。他にも岩手県大槌町の旧役場庁舎解体差止訴訟などの代理人を務める。演劇界や映画界の#Me Tooやパワハラ問題も取り組んでいる。ドキュメンタリー映画では、『大地を受け継ぐ』(井上淳一監督、2015年)企画、『誰がために憲法はある』(井上淳一監督、2019年)製作、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(平良いずみ監督、2020年)製作協力、『わたしは分断を許さない』(堀潤監督、2020年)プロデューサー、『憂鬱之島 Blueisland』(チャン・ジーウン監督、2022年)共同プロデューサーを務めた。演劇では、燐光群『憲法くん』(台本・演出 坂手洋二)の監修も務める。
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