青森(4)ランプの宿、薬師寺の石割カエデ、十和田八幡平公園、城ケ島大橋、八甲田、ブナ二次林、中町こみせ通り、盛美園、夕焼けの岩木山
青森は日本のニューイングランド
薬師寺を後にして、八甲田山のある十和田八幡平国立公園のエリアまで車を走らせます。八甲田山とは大岳を主峰とする十八の火山連山の総称です。すっきりとした秋映えの空の下に、紅葉で赤や黄色に染まった山々が見えてきました。一部に杉植林もありましたが、ほとんど目立たず、秋色に染まった柔らかな山の稜線は、私にアメリカ東部ニューイングランドのバーモント州を思い出させました。かねてから私は、北海道を日本のカナダになぞらえていましたが、青森は日本のニューイングランドといえるかもしれません。
「城ヶ倉大橋」という大きな橋梁のたもとにある駐車場に車を停めて、橋の上から雄大なパノラマを眺めました。この橋のアーチ支間長は255メートルで、日本一だそうです。何よりすばらしかったのは、橋以外の人工物が一切ないことで、橋からは紅葉の山々が果てしなく広がり、そのはるか遠方には岩木山がそびえていました。
下方の城ヶ倉渓流は、護岸工事が施されていない自然のままの流れになっています。奥入瀬といい、自然のままの景色は、いまや東北でないと見られないものなのでしょう。
橋上でしばらくたたずんだ後、八甲田山エリアに向かいました。
最初に訪れた「地獄沼」は、白いブナやカバの木に囲まれたパステルグリーンの池が絵画のようで、一見、小天国です。しかしその名に偽りはありません。この池は約800年前に火山活動によってできた火口池で、この明るいパステルグリーンも毒の証です。沼の中は90度の熱湯が絶えず沸き上がり、水質も強酸性で魚は生息できません。
このあたりの湿原には、池や沼が点在しています。中でも特に景色のきれいなところが「睡蓮沼」です。水連沼は火口池ではないため、水面の色は普通の青さです。睡蓮は見当たりませんでしたが、看板によればこの池にはスイレン科の草が生えていて、そこからこの名前が付いたとのこと。池の周りに植生するアシを囲い込むように、マツの一種、アオモリトドマツが繁っていました。遠方には八甲田の五つの峰々が横並びでスカイラインを描いており、主峰、大岳の山頂は雪で白くなっていました。
睡蓮沼から十和田湖方面へ抜けていく道路沿いの眺めは実に心が洗われるものでした。細く背の高いブナ林が延々と続き、頭上ではブナの枝と枝が折り重なった木のトンネルができています。
このあたりのブナは高さはあるものの、どれも樹齢が数十年という若い木ばかりです。杉植林のように等間隔で植え付けられているわけではありませんが、スラッとしたブナの木が高密度で集まっている光景は洗練されたもので、植林のような、自然林のような、どちらともつかない不思議な雰囲気を醸しています。
オーバーツーリズムの喧騒から離れて──。定番観光地の「奥」には、ディープな自然と文化がひっそりと残されている。『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』のアレックス・カーによる、決定版日本紀行!