前年の課題の改善と悔しさを晴らす春夏連覇の2010年興南
前回の連載では春夏連覇を逃したチームを、そしてこの記事の前半では2004年から2006年の駒大苫小牧の戦いを中心に紹介してきたが、ここからは2010年代の幕開けでいきなり春夏連覇を飾った沖縄の興南の夏の甲子園での戦いを紹介していきたい。
2010年のセンバツで興南は、決勝で日大三との延長戦を制して初の春制覇を果たした。沖縄県予選では、5月の沖縄県春季大会覇者である糸満の宮国椋丞(現・横浜DeNAベイスターズ)を攻略して春夏連続出場を決めた。
その中心になったのは、センバツで大会通算安打記録の13を記録し、打率.565だった3番打者の我如古盛次だ。彼は夏の甲子園でも打率.480とハイアベレージを残して、エース・島袋洋奨を援護した。
下記が興南の戦績と主要選手の成績である。
・興南(2010年夏)大会戦績
決勝 :興南 13-1 東海大相模
準決勝 :興南 6-5 報徳学園
準々決勝:興南 10-3 聖光学院
3回戦 :興南 4-1 仙台育英
2回戦 :興南 8-2 明徳義塾
1回戦 :興南 9-0 鳴門
・興南(2010年夏)打撃成績
4 国吉大陸 打率.560 1本塁打 3打点
8 慶田城開 打率.579 0本塁打 10打点
5 我如古盛次 打率.480 1本塁打 8打点
3 真栄平大輝 打率.200 0本塁打 2打点
9 銘苅圭介 打率.417 0本塁打 5打点
2 山川大輔 打率.360 0本塁打 2打点
7 伊礼伸也 打率.348 1本塁打 6打点
1 島袋洋奨 打率.286 0本塁打 4打点
6 大城滉二 打率.421 0本塁打 5打点
チーム打率.399
投手成績
島袋洋奨 51回 53奪三振 防御率1.95
川満昂弥 2回 5奪三振 防御率0.00
チーム防御率1.83
そもそも興南は2007年の夏の甲子園、2009年のセンバツと夏の甲子園に出場していたものの、2010年までは全国区のチームではなかった。
しかし、この年の興南はセンバツも夏も強豪校を下して勝ち上がった。とくに夏は、明徳義塾や仙台育英、報徳学園、東海大相模といった全国屈指の強豪に勝利して優勝している。
興南が強豪校に負けない力を身につけることができたのは、前年の課題、「粘り弱さ」と「貧打」を克服したからである。実際、前年のセンバツは、初戦の富山商相手に延長10回を無得点に終わり、夏も初戦の明豊相手に3点をリードするものの、終盤に逆転負けを喫していた。
しかし幸いにも、2010年の興南は前年の甲子園出場メンバーが残っていた。エースの島袋は完投できるようにスタミナを磨いた。島袋はトルネード投法の左腕として注目を集めたが、体重移動が生命線のトルネードはスタミナの消耗が激しかった。そこで彼は40段ある階段での左足ジャンプなどによって、軸足を強化。そこから、ワンランク上の投手へと変貌していった。
貧打で苦しんだ打線も、前年の悔しさを晴らすかのように、強豪校のエースを難なく攻略できるレベルにまで達した。この世代は、スタメンの9人中7人が3割を超える強力打線。4割を超える打者も5人いた。チーム打率は、夏の甲子園歴代6位の記録となる。
この年の興南にとってターニングポイントだったのは、準決勝の報徳学園戦だ。この試合は、興南の島袋が2回終了時点で5点を失う展開だった。しかし、そんな中でも興南にはまだ余裕があった。島袋自身、「これだけ取られたし、もう取られないでしょ」と言ったように、その余裕が報徳学園にプレッシャーを与える。
5回に慶田城と我如古のタイムリーで3点を返してからは、一気に興南ペースになっていた。そして、7回に我如古がスリーベースを放ち、苦しんでいた4番の真栄平がタイムリーで勝ち越した。報徳学園の試合運びも悪くなかったが、地力の差で興南が上回った結果となった。
準決勝に劇的な逆転勝ちをしてさらに勢いづいた興南は、決勝の東海大相模戦で大会注目の右腕、一二三慎太を攻略して春夏連覇を果たした。
好投手の島袋にくわえ、強力打線を擁したこの年の興南は、非常にバランスがいいチームだった。無駄なミスの少なさを減らしたことも夏の強さに繋がった。センバツはチーム失策数が6だったが、夏は4失策。ディフェンス力を向上させた。
試合巧者で有名な明徳義塾の馬淵史郎監督は「興南は勝ち方を知っている」とコメントするほど、2010年夏の興南は理想的なチームだった。
連覇のチームから学ぶ、夏を制するために一番必要なことは何か
2000年から2010年の間で、連覇をした、あるいは連覇に近づいたチームを見ていくと軸になる投手がいることや守備の固さは、大前提として必要なことがわかる。それに加えて、大会屈指の好投手でも難なく打ち崩すことのできる打力や、終盤にかけての逆転劇に繋がる集中打が、重要な要素になってくる。たとえば1試合平均の得点は、2000年の智弁和歌山と2008年の大阪桐蔭は、夏の甲子園で9.5点以上を叩き出している。
下記が2000年から2010年の夏優勝校の1試合平均の得点だ。
2000年智弁和歌山 :9.5点
2001年日大三 :8.33点
2002年明徳義塾 :7.5点
2003年常総学院 :5.0点
2004年駒大苫小牧 :8.6点
2005年駒大苫小牧 :7.2点
2006年早稲田実業 :6.52点
2007年佐賀北 :5.33点
2008年大阪桐蔭 :10.33点
2009年中京大中京 :8.66点
2010年興南 :8.33点
このデータをみてもわかるように、打線は水物と言うが、夏を制するチームは、相手投手へ対応した上での得点力の高さで決まると言っても過言ではないのである。
次回の連載では、大阪桐蔭が2度の春夏連覇を成し遂げた2011年から2021年までの連覇の戦略史を振り返っていく。
100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。
プロフィール
野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。