百田尚樹をぜんぶ読む 第2回

百田尚樹の三つの顔──小説家/保守思想家/メディアイベンター

藤田直哉×杉田俊介

藤田 自民党の情報戦略について書いた小口日出彦さんの『情報参謀』(二〇一六年、講談社現代新書)という本を読むと、自民党は、民主党に敗北したあとに、橋下徹のやり方から積極的に学んだみたいなんです。

 つまり、批判や反感を受けて炎上しても構わないから、とにかく派手なことを言って、人々のアテンションを引き付ける。好意を持たれなくても、メディアに露出しさえすれば、単純接触効果(繰り返し接触した対象に対し、好感度が上がっていく効果)によって投票数も増えるんですね。ネットユーザーの反応を見ながら発言の内容も決めていく。

 現代では政治がそもそもメディアイベント化抜きには語れないんですよ。炎上芸によってアクセス数を稼ぐのと同じ仕組みで、投票数を稼ぐ。そういう戦略を自民党は橋下徹からも学んだ、という面がありそうです。

百田的振る舞いの面白さ

 橋下徹という人は大阪のテレビ業界の中から出てきた面があると思いますが、放送作家の経歴をもつ百田尚樹も近いところにいたので、「ウケ方」のノリを共有していてもおかしくない。

mits / PIXTA(ピクスタ)

 

杉田 なるほど。百田尚樹・安倍晋三・橋下徹のつながりは偶然ではない、ということですね。

藤田 僕もインターネット世代だから、彼らのそういう振る舞いの魅力や面白さもわかるんですよ。インターネットこそが、民主主義のあり方や、権力の構造を変えたんだと思います。その変動の中で、既存の権威あるメディアや出版界に対する、オルタナティヴなメディアとしてのインターネットを駆使して、大衆のルサンチマンや情熱を動員していく。「大阪vs東京」という構図もその動員のための分かりやすい物語ですね。

 逆に言えば、対抗する思想の側が、似たような創造的な身のこなしをできなかったことは反省するべきかもしれません。そこは百田尚樹の才能を認めて学ぶべきです。

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百田尚樹をぜんぶ読む

ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家、文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

関連書籍

非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か

プロフィール

藤田直哉×杉田俊介

 

藤田直哉
1983年生まれ。批評家。日本映画大学専任講師。東京工業大学社会理工学研究科価値システム専攻修了。博士(学術)。著書に『娯楽としての炎上』(南雲堂)、『虚構内存在:筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』、『シン・ゴジラ論』(いずれも作品社)、『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)などがある。朝日新聞で「ネット方面見聞録」連載中。文化と、科学と、インターネットと、政治とをクロスさせた論評が持ち味。

 

杉田俊介
1975年生まれ。批評家。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。20代後半より10年ほど障害者支援に従事。著書に『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』(集英社新書)、『無能力批評』(大月書店)、『長渕剛論』『宇多田ヒカル論』(いずれも毎日新聞出版)、『ジョジョ論』『戦争と虚構』(いずれも作品社)、『安彦良和の戦争と平和』(中公新書ラクレ)など。

 
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百田尚樹の三つの顔──小説家/保守思想家/メディアイベンター