アメリカをよくするために――持ち続ける信念
ここまでジェニーヴァのキャリアと問題意識の高さについて書いてきたが、それは彼女の深い人間愛に根ざしたものでもある。
新型コロナの感染爆発で失業した友人の話をした際、彼女は潤んだ目で「何か力になりたい」と私に言った。友人が自分でデザインした手製マスクを細々と売っていることを伝えると、マスクを大量に買い、『BULL』に出演する俳優らに配ったりもしてくれた。
彼女が手を差し伸べるのは、苦境にある個人だけではない。アパートの壁には、さまざまな慈善団体から購入した絵画やアートがかけられている。継続的に寄付をしている団体も多くある。たとえば、クリスマスのプレゼントをもらえない子供達にサンタクロースからのプレゼントが入った靴下を届ける団体「ストッキングス・ウィズ・ケア」、ホームレスの女の子たちにブラジャーや生理用品を贈る団体「アイ・サポート・ザ・ガールズ」などだ。
寄付をするようになったのは、母親フィリス・デューバの影響が強いという。
「20年ほど前、母が亡くなった時に彼女の小切手帳を発見して、ほとんど無一文で亡くなったというのに寄付先の多さに驚いた。5ドルずつと少額だけれども、『救世軍』や『アザラシを救おう』、退役軍人の基金と無数の団体に寄付していた」
「基本的に『寄付してほしい』と頼まれたら、きちんとした団体だと分かれば断らないようにしている。特に、白人以外の子供達は、白人の子供達とは異なった人生を歩まなければならないから」
肌の白さにかかわらず、日常的に弱者の視点を忘れない。常に女性や人種的マイノリティを支援することが、アメリカを良い方向に導くという信念を持ち続ける。そんな彼女の姿が、カマラ・ハリス副大統領の半生とも重なり合う。プロとしての仕事をこなしながら弱者のために考察し、行動を惜しまない。アメリカにはそういう女性がたくさんいる。その多くの中から、副大統領が誕生した。ジェニーヴァは、ハリスを支える信念の女性たちの一人である。
※次回は6月中旬配信予定です
(バナー使用写真:vasilis asvestas / Shutterstock.com)
女性として、黒人として、そしてアジア系として、初めての米国副大統領となったカマラ・ハリス。なぜこのことに意味があるのか、アメリカの女性に何が起きているのか――。在米ジャーナリストがリポートする。
プロフィール
ジャーナリスト、元共同通信社記者。米・ニューヨーク在住。2003年、ビジネスニュース特派員としてニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。米国の経済、政治について「AERA」、「ビジネスインサイダー」などで執筆。近著に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。