中東から世界を見る視点 第10回

繰り返す中東危機とパレスチナ問題

川上泰徳
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「エルサレム解放」を叫んだエジプト人の若者たち

 2011年の「アラブの春」で、いまでも記憶に残っている光景がある。エジプトでの若者たちの大規模なデモによって2月にムバラク大統領が辞任してから3か月後の5月、エジプト・アレクサンドリアの海岸通りで50人ほどのデモ隊と出会った。そのころ若者たちのデモは日常茶飯事になっていたので「またか」という思いだったが、デモが近づいてくると、いつもはエジプトの旗が振られるのに、その時はパレスチナの旗が振られているのに気づいた。若者たちは「エルサレム解放」を叫んでいた。

パレスチナの旗を振って連帯を訴えるエジプト人のデモ隊(撮影・川上泰徳)

 

 その日は5月15日。パレスチナ人が「ナクバ(大惨事)」と呼ぶ第1次中東戦争の開戦記念日だった。ナクバによってパレスチナ人70万人が故郷を追われ、難民化した。

 私は朝日新聞の特派員としてエジプトに90年代から3回赴任していたが、パレスチナの「ナクバの日」に、エジプト人がパレスチナ人への連帯を示すために自発的にデモをしたのを見た記憶がなかった。

「アラブの春」まで強権体制が続いていたエジプトでは、いかなるデモも規制され、イスラエルに抗議する「ナクバの日」のデモも例外ではなかった。ムバラク体制が崩壊した後、政治的な自由が戻ったエジプトでは、若者たちは自発的にパレスチナ人への連帯を表明するデモを行ったのである。「アラブの春」を担ったエジプト人の若者たちにとっては、パレスチナ問題は自分たちの革命ともつながっていたということである。

 それから7年が経過し、「アラブの春」で若者たちが求めた自由も、民主化も実現することなく、中東の状況は悪化している。一方、2018年5月に「ナクバ70年」を迎えるパレスチナ問題は、イスラエル寄りの立場をとる米国トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めて、5月に米国大使館をエルサレムに移すと決定しており、パレスチナ人の反発による混乱が懸念されている。

「ナクバ70年」を前に、パレスチナ問題とアラブ・中東情勢は、どのような関係にあるのかを考えてみたい。

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中東から世界を見る視点

中東情勢は、中東の国々と中東に関わる国々の相互作用で生まれる。米国が加わり、ロシアが加わり、日本もまた中東情勢をつくる構成要素の一つである。中東には世界を映す舞台がある。中東情勢を読み解きながら、日本を含めた世界の動きを追っていく。

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プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。元朝日新聞記者・中東特派員。中東報道で2002年ボーン・上田記念国際記者賞。退社後、フリーランスとして中東と日本半々の生活。著書に『「イスラム国」はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)、『イラク零年』(朝日新聞社)、『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)など。共著に『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)。

 
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