大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 Vol.4

NYはジャズの学びの地

大江千里

ジャズの勉強はなるようにしかならない?

基礎練の話はこれくらいにして、僕が通っていたニュースクール大学の2008年から2012年に渡って経験したカリキュラムにも少し触れたいと思います。

ニュースクールはボストンのバークレーとは違って、コードの呼び方やモードの名前が少し違います。同じ東海岸なのにジャズへのアプローチが違うんですね。面白いです。

我が校は基本、教科書を使わない授業でした。先生は伝えたい情報を口で話したりいっぱい黒板に書いたりして生徒に伝えます。でもスピードが速いのでどんどん消されて次から次へとアップデートされるのでついていくのが必死。

先生の表記ミスも多く僕はきっちり好きなので「あれは♭Eじゃなくて♮Eじゃないか?」とクラスメートに粘り強く聞くのですが、「そりゃ先生だってスペルミスするだろう。自分の頭で変換すればいいじゃん」と言われるわけです。「え? だって間違った情報を与えられて、それをテストで書いたら点数もらえないじゃない?」となおも食い下がる僕に、両手を広げて「Whatever! (なるようになるしかないだろ)」これで終わります。

与太話のようで、この「Whatever! (なるようになるしかないだろ)」の感覚がジャズの大きな特徴、素敵な色だと思います。教科書がないのも口で重要事項を伝えるのも、どこか「正解は自分で決めろ」と言われているような気がしていました。実際卒業してピアニストとして活動を始めて実感するのは、まさにこの感覚です。

カリキュラムで非常に重きを置かれていたのが、イヤートレーニング(聴音)です。ジャズを聴く基本の耳も同じだと思います。授業の例を2つご紹介します。

まず完全5度(ドソ)を聴き取るコツがレフェレンスソング(参照曲)に「きらきら星」を歌ってみると、「キラキラ星よ」の「キラ」と「キラ」の間が丁度「完全5度」になるんですね。ちょっと歌ってピアノの鍵盤で確かめてみてください。これで完全5度は間違いなし!

次に「短2度」のデイセンデイング(下降)はどうでしょう。この音程は鍵盤では「半音隣の音」になります。デイセンデイング(下降)すると情緒的な印象があります。ベートーヴェンの「エリーゼのために」を弾いてみてください。出だしってそうじゃないですか?バラエティで言うと、ガキの使いの「松本OUT!」の時もこれですし、徹子の部屋のテーマの出だしもこれ。面白いでしょう? イメージによって全く違って聞こえているけど、インターバルは同じなんです。鍵盤で実際に弾いて確かめてみてください。

また初見の譜面をすぐに弾けるようになる実際的コツを学ぶクラスもありました。サイトリーディング(予習なしで読むこと)。目の検査みたい(笑)ですね。目で読むわけです。無作為に先生が選んだ譜面がピアノの前に置かれます。それを最初から両手で一音も間違えずに弾くのです。ゆっくりでいいのですが、テンポが揺れるとダメ。僕はバッハの「インベンション」でこれを受講したのですが、コツは「縦に譜面を読むこと」でした。

後々ビッグバンドのオーケストラの譜面を読む時に役に立つのですが、この一瞬にして縦に何が並んでいるかを把握する力をつけると、その先に何が起こるかの予兆みたいな力が備わってくるのです。つまりドレミファとくれば、その先のフレーズはおそらくソラシと来るのではないか。もしかしたらドレミファの次はデイセンデイング(下降)で→ミレドかもしれない。

1人で弾いて練習しても緊張感がありませんから、クラス中の男子にピアノを弾く自分が囲まれてテストを受けるのです。それで間違えると詰られます。だからものすごい緊張感で「動物のジャズ勘」が冴え渡ります。

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プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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