大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 Vol.4

NYはジャズの学びの地

大江千里

これもアリだ、いいよね? の発想

さて今回は、僕が実際に体験した基礎練や大学のエピソードから、ジャズを聴くときに最低限知っておきたい知識を書いてきました。

最後は、僕がニュースクールで最後に習ったピアノの先生、アーメン‧ドネリアンの授業の話です。アーメンはプライベートレッスンの先生と生徒を繋げる、いわゆるブッキングの仕事をメインにやっていました。僕も卒業前はだんだん学校に慣れてきて有名な演奏家というだけで習うんじゃなく(アーメンは十分有名ですが)、具体的に教わりたいことが明確になってきた時期だからこそ、絞り込んだポイントを教え込んでほしいと志願しました。

今僕が演奏活動をしながら毎日する基礎練は、ほとんどこの先生に習ったことです。ずっと書いてきたすべては、どれもジャズを弾いたり聴いたりする上で役にたつ知識ばかりなので、それらを繋げて自分の「頭と体に刷り込んでいく」ことを、この先生から学びました。

この章の最後に言いたいのは、ジャズが素敵なのは、20世紀初頭に黒人たちの労働歌として生まれるべくして生まれて以来、白人のディキシーランドジャズやアメリカンインディアンの音楽や、ヨーロッパやアフリカ、カリブ海から入ってきた音楽たちが混じり合って互いを認め合って、形をどんどん変え進化したから、ということです。

これはダメだ、ではなくて、これもアリだ、いいよね? という発想。この発想を持ってジャズという音楽を聴くと、素敵なジャズがどんどん耳から入ってきて心に響き始めます。若干厄介な数学的な公式などありますが、それは僕も含めて日々の精進としてわきまえつつ、知っていないと恥ずかしいという窮屈な聴き方だと、ジャズのような素敵な音楽を聴くのにもったいない気がします。

ほら、こうして僕の文章を読んだ後心と体がムズムズして来ませんか? それならば、すぐに何か手当たり次第聴いてみましょうよ。それが運命を変えるジャズになるかもしれません。

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プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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