大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 最終回

新世代の新しいジャズの潮流

大江千里

ジャンルをまたいだコラボが格好いい時代

方向をヨーロッパに向けます。ロンドンでは90年初頭、シャーデーがアフリカやカリブの香りを音楽に漂わせて、移民や混血の内情をラブソングの端々に散りばめ、世界的な大ヒットに繋がったポップスの歴史があります。

そんな移民の次世代によってアフロビートやラテンビート、レゲエビートなどがジャズと混じり合う動きが起こります。例えばエズラ・コレクティブ。「Ajala」の「Vevoスタジオ」での撮り下ろしライブパフォーマンスは圧巻です。

シャバカ・ハッチングスの「ワールドワイドFM」でのセッションも文化の背景、ルーツにあるものが非常にわかりやすく出ていて必見です。

ギターリスト&ボーカリストのトム・ミッシュやオスカー・ジェロームはポップス期のジョン・メイヤーの活躍などともリンクしているように感じるのは僕だけでしょうか。ジャズとアコースティックの親和性、そして楽器を弾く人は歌を歌いたくなるという自然な摂理を証明しています。トム・ミッシュ「Insecure」、オスカー・ジェローム「Easier」など手作り感あふれる仲間の映像作家とのコラボによるテイストのビジュアルにもグッと来ます。

最近、「ジャズリバイバル」という言葉を聞くことがありますが、アイスランドのレイヴェイは、古い時代の「ジャズっぽいね」の進化形だと言えるでしょう。パリのステイシー・ケントや前述のベッカ・スティーヴンスがジャズからポップスへ寄せていってるとすれば、レイヴェイは完璧にポップからジャズへの歩み寄りです。

「From The Start」をぜひチェックしてほしいです。ここではジャズスキャットをポップス側から寄せながら、かなりその境目を渡った新しい表現で、PVのポップでキュートさ具合ったらないです。同じ曲をネオアコギでオーケストラと弾き語るケネディセンターのライブ版では、BTSやジャスティン・ビーバーに向けて携帯の画面の録画ボタンを押す若いZ世代の人たちの熱い眼差しと声援を見ることができます。

そう、ジャスティン・ビーバーと言えば、2010年の 「Tonight Show with Jimmy Fallon」の中で素晴らしいジャズドラムプレイをザ・ルーツのクエストラブと共に披露しています。ジャズを聴いてヒップホップを聴いて育ったジャスティンが、ザ・ルーツのクエストラブと渡りあう。音楽って本当に素敵です。

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 Vol.6

プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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