大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 最終回

新世代の新しいジャズの潮流

大江千里

2022年のグラミー賞の出来事

ポップスというジャンルで、いやそれ以上の多岐にわたるジャンルを跨いでたニューオーリンズ出身のジョン・バティステが2022年のグラミーで、ジャズピアニストとしてシンガーソングライターとして最優秀アルバム賞をはじめ5部門を受賞しました。ジャズがジャズという名前や解釈ではなくてソーシャルミュージックとして、日々に密着した音楽だという事実を証明した瞬間でした。

僕はニューオーリンズから先月帰ってきたばかりなのですが、いろんな音楽家と会ってこの地に「言葉」を大事にしているアーティストが多いことを改めて知りました。

僕のピアノに乗せてオリジナルの詩を読む若者、70年代からずっと語り部のごとく街を動き回っている神様のような人物との会話。そこには夢や希望、愛や平和が当たり前のように登場し、生きることを讃える音楽が常に言葉と共にあるのを知りました。

ジャズって素敵。音楽が手を繋いでいろんな色に変化していくのは喜び以外の何ものでもないです。普段着で身近にあるジャズが聴ける場所やライブラリーへぜひ出かけてみてください。そして心が震えるような音楽に出会ってください。

全7回にわたってお届けした『ジャズって素敵!』はニューヨークで僕がジャズを演奏しながら感じた感覚を通じて「これは大切に忘れないようにしよう」と思ったいくつかを、シンプルな言葉で綴った備忘録です。

ですので、他の「ジャズ入門」に比べてお勉強色を薄めて、もっと肩ひじを張らずに「ジャズってこんなにカッコイイ音楽なんだよ!」とストレートに伝えられたのではないかと思います。それこそ今回取り上げたミュージシャンたちは、ジャズを「歴史」のものとして見なすのではなく、ヒップホップやロックと並んだ「今」のものとして捉えていますし、僕自身その感覚を伝えたいと思い、筆をとりました。

みなさんとどこかライブで会えるようにと願いつつ、僕は次のジャズの旅へと出かけます。

ご愛読ありがとうございました。

参考文献:
藤本史昭「クラシック·リスナーに贈るジャズ名盤この1枚」(王子ホールマガジン Vol.43)
柳樂光隆「なぜ、今“ジャズ”を語るべきなのか?」(BRUTUS WEB)
旭利彦「日本人にとってのジャズ」

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 Vol.6

プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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