シングルマザー、その後 第2回

必死に働いて来た母親が見捨てられる

黒川祥子
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 アルバイトをするようになり、次男は落ち着いた。ほっとするのも束の間、長男が高校を卒業、大学に進学することとなった。経済学部で、年間110万円の学費だ。今度も、母子貸付金を利用した。

「自営業でそんなに収入がないから、満額、借りられたんです。この時の110万×4年分を今、私が返済中です。次男はバイト代で返し終わり、娘は大学の分も含めて今、せっせと自分で返していますが」

 なぜ、長男だけがと有紗さんは思う。長男は大学4年を遊んで暮らし卒業することなく、今は父親の会社に後継ぎとして迎え入れられている。結婚し、子どももでき、父親に頭金を払ってもらい、マイホームを購入した。

「いくら自分で返してと言っても、『大学なんか、行きたくなかった。そもそも、親が払うもんだ』の一点張り。私の名前で借りてるから、否応無く、私の口座から引き落とされる」

 私の育て方が悪かったのか、父親との面会交流がよくなかったのかと、ふと思う。元夫は学費こそ払わないが、たまに長男と長女を呼び出し、高額な食事をし、10万もの小遣いをパッと渡し、好きなものを買い与え続けてきた。

「長男は、喜んで会いに行ってました。次男は、絶対に行かなかったですね。会いに来ない子に小遣いはなしです。次男も今、父の会社で働いているのですが、それは前の会社がブラックで、もうしょうがなく。今は、働き先がないからね」

子どもを育ててきただけなのに……

 まさか、子どもが巣立った後に経済的困窮が待っていようとは、有紗さんには夢にも思わないことだった。

 就職が決まった子どもたちは、職場の近くに住むと、順番に家を出て行った。有紗さんも一人暮らし用のマンションに引っ越すことにしたのだが、転居に際して請求された住宅の修繕費用が70万円。

「目を疑いました。次男だけでなく、長男も彼女に振られた腹いせに壁に穴を開けたり、風呂場のドアを壊したり。長男と次男の部屋は友達が大勢来て、タバコをプカプカ吸うから、家中の壁紙を全部、張り替えないといけなくて」

 修繕費用を一括で払ったことで、有紗さんの貯金は消えた。加えて、不況が色濃くなったことで、整体サロンの客も減っていく。

 子育ての肩の荷が下りたと同時に、みるみる支出が増えていく。大きな要因が、母子福祉の支えが無くなったことだった。

「児童扶養手当が無くなったと同時に支出が増える。医療費助成がなくなり、確定申告も扶養控除が無くなって課税額が増えるし。だから、今まで免除だった国民年金も払わないといけないし、国民健康保険も扶養家族がいた時は安かったけど、ぐんと額が上がって……。子どもが成人したことにより、ありとあらゆるものの支出が増えて行ったんです。母子家庭として3人の子どもと生きていくことに必死で、母子福祉がなくなる先のことまで考える余裕がなかった。後悔先に立たずです」

 福祉の支えが、全て消えたダメージは大きかった。そこに、長男の貸付金の返済がのしかかる。おまけに仕事は先細り気味だ。

「浮き沈みの激しい仕事なので、足りない時にカードのキャッシングを使うようになったんです。今月、家賃が厳しいなとなった時などに。カードで買い物はするけど、キャッシングには手をつけないのが自慢だったのですが」

 インフルエンザが流行っただけで、キャンセルが相次いで客が減る。となると、予定していた金額が入らない。家賃は住居とサロン、合わせて10万。家賃の支払いなどにキャッシングするようになった。さらに、リボ払いという盲点もあった。

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

「買い物したのをその月に支払って、持ち越さないようにしていたのですが、自動リボ払いにすれば何万円分のポイントがつくというキャンペーンに引っかかって、乗ってしまいました。こんなに利子が膨らむなんて、思いもしなかった。気付くのに1年ぐらいかかって、今は元本が減らずに、利子ばっかり払っている状態です」

 カードの返済日に利用額を支払った後に、またキャッシングで現金を作り、返していく。毎月のカード返済は膨らみ続け、借金ばかりが増えて行く。

 50代も半ばを越えた時期に、こんな生活が待っていようとは……。最近は疲れやすく、身体の不調を実感する。思うように働けなくなってきているのだ。

「長男に、『若くて働けるうちに、なんで老後のことを考えて貯金しなかったんだよ』と言われたことがあって、『貯金できないのが母子家庭なんだよ!』って。『あんたは父親に小遣いもらって貧乏と思わなかっただろうけど、その父親は学費や塾代には一切、お金を出さなかったじゃないか!』って。あー、悔しかった。子どもに母の苦労を見せなかったことがいけなかったのかな……と」

 離婚時の年金分割もない時代、おまけに私立高校の学費無償化も存在しない時代だ。

「一番大変な時期に、母子家庭をしてきたような気がします。必死に働いて来た母親が見捨てられて、自分でなんとかしろと迫られる」

 ささやかな支えは、娘が毎月3万円を家に入れてくれることだ。でも結婚を考え、そろそろ、自分のための貯金も必要になってくる。いつまでも甘えるわけにはいかない。

 考えるほどに悔しくて、頑張って、一人で生き抜いてやるぞと思う。しかし、現実は借金まみれの悪循環に(あえ)ぐ日々だ。

「私、何も、贅沢してないのに。子どもを育ててきただけなのに……」

 なぜ、この国のシングルマザーにはこんな未来しか用意されていないのか。有紗さんが訴える悔しさ、理不尽さはあまりにも当然のことだ。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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