「それから」の大阪 第15回

川から見るコロナ禍の大阪 「御舟かもめ」の1年半

スズキナオ

「特殊やから支援も受けられない」

以来、大阪の川をクルーズする小型船として運営を続けてきたが、2020年の4月、新型コロナウイルスの流行によって大阪府も対象区域に含む緊急事態宣言が発令され、運休を余儀なくされた。その頃からこれまでの経緯について、お二人にお話を伺った。

かつては真珠の養殖船だったという御舟かもめの船(2021年11月撮影)

――2020年の4月に緊急事態宣言が出て、そこからしばらくお休みされていたのですね。

吉崎さん「御舟かもめを10年以上やってきて、1ヶ月も水の上に出ないというのは初めてのことでした。(2020年の)6月になって緊急事態宣言があけて、久しぶりに営業が再開できた時に『もうこれだけでいいやん!水の上でゆらゆらしてるだけでいいやん!』って思ったんです。それまではお客さんに楽しんでもらうためにどうしたらいいかと考えて、もっと見どころを増やそうとか、食べられるものを増やそうとか、あれこれ足そうとしてたんですね。でもコロナで長く休むことになった時に、ゆっくり水の上の時間を味わってもらえればそれでいいと思えて、クルーズ時間を長くして運航速度もゆっくりにしたんですよ。コースの内容もそれまでよりシンプルにしました」

御舟かもめの船上でインタビューに答えていただいた(2021年11月撮影)

――それはすごく大きな変化ですね。その後も緊急事態宣言が出てはまた解除されたりと先の読めないような時期が続きましたね。

中野さん「感染者が増えてきたら乗り合いプランをやめて一便一組限定にしたりとか、ずっと様子を見ながらここまで来ている感じです。それでも去年(2020年)の秋頃はイベントを企画したり、テーマを設けてクルーズしたり、雰囲気的にもそういうことができてたんです。今年(2021年)に入ってからの方が厳しくて、4月に緊急事態宣言が出て、夏もだったでしょう。コロナの感じも定着してしまって、諦めムードというか、イベントをやれるような雰囲気でもなくなってきましたね」

――対策を厳しくしたり、また緩めたりを繰り返していくのも大変ですよね。

吉崎さん「我が家はこの船で一家5人(お二人の間には3人のお子さんがいる)が食べていく必要があるので、去年も今年も桜の季節にごっそり営業できなかったのがかなりつらくて。3月から4月は一年で一番の繁忙期で、そこで一年の何割かを稼がなあかんという時なので」

中野さん「うちはスキー場みたいに季節商売なところもあるんで、桜の季節に予約が入って安心していたのにそれがどんどんキャンセルになっていくとさすがに参ってしまう。『今年はなんとかやっていけそうやな』と話していた矢先にそれが崩れ去っていく感じはすごく不安でした」

出航の準備を行う中野さんと吉崎さん(2021年11月撮影)

 

――収入の大きな部分を得られる時期に船が出せないという……それが2020年、2021年と続いたわけですね

中野さん「副業のバランスを増やしてかなりギリギリの状態でやっていました。そもそもコロナ以前から自転車操業のようなところがありますから。なんとか走り回って融資を調達したりもしましたが、正直なところ僕らのような自営業の遊覧船ってかなり特殊なので、助成が手厚くはないんです。『Go Toトラベル』が始まった時も、こんなちっちゃい船にはそれほどの効果もなかったですし」

吉崎さん「国から『営業してはいけない』と言われているわけじゃなくて自主的に運航をやめているという形になるので協力金は出ないんですよ」

――なるほど、営業停止要請が出ていないからそれに対する協力金もなにもないと。

中野さん「会社に勤めていれば雇用調整助成金ですとかそっちのほうである程度手当はできるかもしれないですけど、自営業なので活用できる助成金が少なかったり条件が厳しくて」

吉崎さん「うちは小さすぎて前例がないからと言われて、創業したとき飲食店の許可を得るのも無理だといわれてしまって」

――御舟かもめさんのケースが特殊ゆえに支援の手が届かないという状態なのですね。政府の目からこぼれてしまうという。

中野さん「まあ、特殊やからこそ今までやってこれた面もあるんですけど(笑)。特殊やから支援も受けられないという」

船の運転とガイドは一人で行うという(2021年11月撮影)

――今年(2021年)の10月になってようやく大阪の緊急事態宣言も解除になりましたが、まだまだ楽観はできない状態が続きそうでしょうか。

中野さん「全然(笑)。まあ二人で副業をしたりしてここまでは乗り切ってきたので、今のところは廃業を考えるまではいかずに済んでるんですけど、綱渡りはずっと続いていますよね。緊急事態宣言は解除になりましたけど、僕らも何回もシステムをころころ変えるのは嫌なんで、10月いっぱいは一便一組に限定していて、ようやく11月から戻したというぐらいで」

吉崎さん「うちは、『明日行こうかな』ってレストランを予約するみたいな感覚とは違って、『友達の誕生日のお祝いにみんなで乗ろう』みたいに1週間前とか1ヶ月前から予約される方が多いので、私たちも先を読んでおくというか、覚悟を先に決めておかないといけないんです(笑)」

中野さん「事態をちょっと悪めに予想しておくというか、そういう風にしないといけないんですよね」

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 第14回
「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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