「それから」の大阪 第15回

川から見るコロナ禍の大阪 「御舟かもめ」の1年半

スズキナオ

速度を落としたから見えたことがある

――梅田あたりの飲食店を見ていると11月になって酒類提供もOKになって、時短営業をしているお店もだいぶ減って、ちょっと活気が戻ったように思うのですが。

中野さん「周りの人には『そろそろお客さん増えてきたでしょ』とか言われるんですけど、正直そう言えるほど景気もよくないし、海外はもちろん、国内の観光客の方が戻ってくるのもまだ先になるだろうし。これから国のフォローはどんどん無くなっていくだろうし……とにかく次の桜のシーズンはちゃんとやらせて欲しいなって思います」

大川沿いには桜並木が続き、花見スポットとしても有名だ(2021年4月撮影)

――飲食店などのムードとはまた全然違うわけですね。

中野さん「食べる、飲むとかって普段からみんなすることじゃないですか。でも船に乗るって日常にはあんまり無いですからね。日々のレクリエーションの優先順位でいうと低いから。『とりあえず居酒屋いこう』、『とりあえずライブ行こう』、となっていく中で、いつ思い出してもらえるかな、みたいなんはありますね」

吉崎さん「早く私らが『乗りに来てください!』って大っぴらに言えるようになって欲しいっていうのが一番ですね。まだどうしても100%の気持ちでは言えないんですよね。イベントを準備しても直前でダメになるかもしれないと思うとそこまでのリスクも負えないですし、気持ちももたないんですよ。でも最近になってようやくイベントを準備し始めているところで、冬に中之島で野鳥を見るクルーズはどうだろうと考えてます。きちんと専門家の先生に監修してもらえたらいいなと思っています」

――大阪の川から野鳥を眺めるというのは面白そうです。

吉崎さん「野鳥の紹介動画も作って事前にお客さんに見てもらうようにすれば知識もより深まるかな、とか色々考えています。あと、中之島周辺は名建築と呼ばれるような建物も多いので川からじっくり眺めるようなクルーズもしてみたい。大阪の町は川から繁栄してきたので、川からしか見えない町の姿をじっくり見てもらえたらいいなと思っていて」

1918年に竣工した大阪市中央公会堂も川から眺めることができる(2020年7月撮影)

――緊急事態宣言が解除になって船の予約状況はいかがでしょうか。

吉崎さん「コロナ以前の6割ぐらいですね。大阪の人は乗りに来てくれてるんですけど、観光の方はまだまだ戻ってこないです。残りの4割をなんとか自分たちで補てんしないといけない。徐々に副業のバランスを減らしていきたいんですけど、時期の見極めが難しい」

中野さん「そもそも川の上が好きでのんびり仕事したいなと思って始めたんで、『なんのためにやってるのかわからん』ということにならないようにうまく着地したいです。とにかく僕らは細く長く続けるのが目標なので」

――二人でやっているゆえの柔軟さというか、しぶとさもあるように感じます。私が言うのはおこがましいですが……。

中野さん「そうそう。しぶといってちょいちょい言われるのが嬉しいんです(笑)」

吉崎さん「こんな危機は初めてやったんで、とにかく1年半、沈まさずに乗り越えれたっていう……乗り越えれたって言っていいんかな、とりあえず今は乗り越えれてるっていうのが自分たちの自信にはなって。御舟かもめの強さにはなったかなと思いますね」

――本当に次から次へとハードルが現れるような1年半でしたよね。

吉崎さん「でもなんか、ゆとりができたんかな。『野鳥を見るクルーズしてみようか』って考えるようなことでも、ゆっくり航行する時間が増えて、鳥が見えたり周りの景色が見えたりしたからだと思うんです。ゆったり考えられるようになったんかも。速度を落としたから見えたことがあるかも」

中野さん「昔は1日に何便出すかということばっかり考えていたところはあるかもしれないです。コロナ前は、すごく海外の観光客に意識が行ってたんですよね。『世界中の人に楽しんでもらうには』とか『アジアの人に楽しんでもらうには』って、それはもちろんいいことなんですけど、じゃあ大阪の人に改めて知ってもらうにはどうしたらいいかとか、そういう近い場所を見直すきっかけになったかもしれないです。まだまだ身近なところでもやれることがあるなと」

クッションが置かれ、ゆったりくつろげるオープンデッキ。秋冬シーズンにはコタツが出される(2021年11月撮影)

秋から冬にかけて紅葉する川沿いの木々が美しい(2021年11月撮影)

――川の上から見て大阪の町の変化は感じますか?

吉崎さん「中之島の公園は人が増えましたよね。あとは道頓堀の変化がすごかった。本当にゴーストタウンみたいに人がいない時期があって、その次に、もともとミナミで上品に遊んでたであろう人たちがごっそりいなくなって若者たちだけの時期があって、また今、人がすごいっていう、とにかく変化が激しいです」

中野さん「海外の観光客とか、若い人とか、そういうグループがその時々でごっそり抜けたり入れ替わって現れる感じでした。ミナミの雰囲気は色んな人が混ざってできていたということがわかりましたね。中之島の公園は人が増えて、『川沿いいいよね』とか『川に出てみて御舟かもめを見つけた』という人も結構いるんじゃないかと思います。これまで外に出てない人も川に出るようになったと思います」

大川にかかるいくつもの橋を間近に眺められるのも楽しい(2021年11月撮影)

吉崎さん「私はみんなもっと川に出た方がいいって昔から思ってたから、それはよかったなと思いますけどね」

――私もまた乗船させてもらおうと思います。今日はありがとうございました。

 

取材当日は11月初旬の天気のいい祝日で、御舟かもめの予約も埋まっているとのことだった。家族連れのグループ客を乗せて水上へと滑り出ていく小さな船を見送りながら、来年、この川沿いの桜並木に花が咲く時には、人々を乗せた御舟かもめの船の姿もその場にあって欲しいと強く思った。

中之島方面へと出航する御舟かもめの船(2021年11月撮影)

(つづく)

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「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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