安売り合戦をやめて、新しい試みを
――ちなみに太陽製麺所の配送エリアというのは、どこまでの範囲なのでしょうか。
「大阪と京都、兵庫、奈良です。和歌山とか滋賀ですとかそういうところは商品を郵送させてもらっていまして、車が走って直接配送しているのは大阪、京都、兵庫、奈良ですね」
――そのエリアへは毎日のように配送するわけですよね。
「配送先はおよそ2600店舗あるのですが、エリアごとにコロナの影響の大きさには差がありまして、今までは大阪市内が一番売り上げも大きかったんですけど、今はむしろそこが一番下がってしまっています。それこそ、市内にあるような大きな企業さんだとテレワークに切り替えて出社禁止にするところもありましたし、ただでさえ人出が減った上に、外食を控える方も多かったので」
――大きな企業が集まる中心地ほど影響が大きかったんですね。
「今までも、それこそリーマンショックとか、世界的に大きな波はありましたけど、食品、飲食業界ってそんなに影響を受けてなかったと思うんです。うちの会社も2000年代までずっと関西でもトップクラスのシェアを誇っていて、変化があったとしても比較的緩やかな動きだったんです。それが初めて本当にドカッと、半分とか、常時30%40%のダウンになったりしたので。とにかく使える制度をしっかり使いながら、何がなんでも生き残ろうというのが第一でしたね。しっかりと生き残って商品を提供し続けるしかないというか、それをやる以外ないという感じでした」
――2021年になって状況は多少変わりましたか?
「うちみたいな企業、つまり飲食店側に卸す側の業者に対しては特別の補助金とかっていうのはなくて、雇用調整助成金っていうものを使うのが主になるんです。休業したらその分の人件費を一部補助してもらえる制度なんですが、どれだけ休むかというのをしっかり見極める必要があるんです。工場での生産が半分になれば、当然稼働も半分にしなければならない。そうなれば配送も半分にする必要がありますから、とにかくみんなでがんばって休もうと(笑)。反対に緊急事態宣言が解除になって売り上げが上がってくれば、また稼働も上げていかないといけないし、かといって稼働を上げ過ぎるとダメになってしまう。下げ過ぎると製品を作り切れないし、運び切れない。そのあたりを各部署とやり取りしながら、また、現場の当事者と話ながら調整していく必要がありました」
――お聞きするだけで神経のすり減りそうな役割です。
「でも、その調整にもだんだん慣れてくるんですね。ずっと続いていることですから。それはうちの会社だけではなく、お互いに慣れてきて、どの業者さんとお話しても暗い話しか出ないんですよ(笑)。もちろん、僕らも先が見えないのは辛いんですけど、かといって暗いことばかり言っていてもしょうがない。その辺りから『何か新しいことができないかな』という話を社内でも取引先との間でもよくするようになりました。たとえば『心斎橋や戎橋の商店街の空きテナントを使って冷凍餃子の無人販売をしてみるのはどうだろう』とか、そういったことも考えていました」
――最近、大阪市内を歩いていて無人で餃子を販売するお店が増えているように感じるんですが、そういう背景もあって増えているんでしょうね。
「それこそ今年の5月にうちの近くに設置することになった『ヌードルツアーズ』もそうです。あれは東京の丸山製麺さんっていう、僕のもともとの知り合いがやっているものなんです。丸山製麺の社長の丸山さんも僕と同じく三代目で製麺所を継いでいる方です。東京でお会いして、その後もお互いの工場を見学したりして、『何かの形でコラボできたらいいですね』と話していて、そんな縁もあって、関西で初めて『ヌードルツアーズ』の自販機を置くことになったんです」
――話題になっているのをSNS等で拝見していました。
「ずっと暗い話ばっかりで新しい話題が何もなくて、一時期は誰と話しても『まあ大変やな』みたいな話しか出なかったんですよ(笑)。自分たち自身がもうこの状況に飽きてきていたんですよね。このままではムードが変わらない。もちろん『ヌードルツアーズ』の自販機を置いたからといってもそれだけですべて明るくなるわけじゃないですけど、どんどん話題を作っていきたいなと。実際、それをきっかけにテレビの取材を受けたりとか、Youtuberの方がたくさん来たりですとか、何よりもお客さんの方から『何か新しいことやっている製麺所なんだ』と思っていただけたようで、それはすごくよかったと思うんです」
――実際、私も太陽製麺所のSNSアカウントを拝見していて、新しいことに柔軟にトライしているという印象を受けていました。
「そう思っていただけると嬉しいです。今、原材料の価格が上がってきていて、製麺業界では値上げが大きなトピックになっているんです。関西の製麺所って昔からバチバチにやり合っているというか、営業の仕掛け合いをかなりしていたんです。単価を下げてお客さんを取るっていうスタイルの応酬で、全国的に見ても単価がすごく安いんですよ。でも、安売りし過ぎて潰れてしまっては意味がない。業界のためにもならないと思うんです。そこで今考えているのは、来年からは値段をきちんと定めて、バーンとオープンにして、できるだけ適正な価格にしていきたい。何よりお客さんにとってもわかりやすくなると思いますし」
――安売り合戦のようになってお互い疲弊しては意味がないですよね。
「そこら辺がもっとすっきりすれば、取引先とも、他に新しい試みができないかとか、そういう話をする時間が作れるんじゃないかなと思います。
2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。
プロフィール
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。