コロナでも営業時間は変えない。チラシもやめない
私は2019年にスーパー玉出を取材したことがあり、その際にも國枝尚隆さんにお話を聞いた。スーパー玉出は2018年の7月にそれ以前の経営者から株式会社フライフィッシュへと運営母体が移行しており、國枝さんは現体制になってから取締役として関わっている。2019年時の取材では、「見て驚いて笑って買う店舗づくり」を目標に据え、ただ安いから買い物をするというのではなく、スーパー玉出という存在自体を面白がって欲しいこと、スーパー玉出らしさを大切な財産として捉え、外にPRしていこうと考えていることなどを伺っていた。
――2019年に別の媒体でインタビューをさせていただいた時に、今後はショッピングバッグやオリジナルグッズを作っていきたいという風におっしゃっていたのが印象的だったのですが、まさか本当にこんなにグッズが作られるとは思いませんでした。
「そうなんですよ。数えたらショッピングバッグを除いて、現在までにオリジナルグッズが6種類あって、これがタオルで、これがつい最近出たナップザックで……」
――すごい勢いですよね。私もいくつか購入して普段から使っています。ショッピングバッグはお土産としてもすごく喜ばれて!
「それはそれは、ありがとうございます。ショッピングバッグは(2022年の)3月からまた販売する予定で準備をしています。グッズの方はどういうものを作れば喜んでもらえるか、考えるのがすごく大変で(笑)。そもそも、これが商売じゃないんで利益はないんですよ。でもお客様がお金を出して買ってくださった上に『グッズを作ってくれてありがとうございます!』と感謝されるんです。それがすごく嬉しくて、嬉しいだけに、『次、どうしよう』っていうプレッシャーがとんでもない(笑)」
――スーパーのロゴが入ったグッズがここまで人気を呼ぶというのはスーパー玉出さんならではのことだと思います。
「みなさん、楽しんでくださっているようです。玉出グッズをコレクションしてくださるお客様や、発売日には発売開始前から『スマホの前で正座して発売を待っています』とツイートしてくださるお客様がいて本当に嬉しい限りです。スーパーマーケットって割とどこも似たり寄ったりですよね。そういう中でこうして面白がって楽しみながら話題にしてもらって、大阪に来た時に『ここが玉出かー!』と喜んでもらえれば最高ですね」
――取材後の2020年以降、あっという間にコロナ禍の世の中になってしまいましたが、あれからスーパー玉出さんはどのようなことに取り組んでいたんでしょうか。
「あの後、テレビの情報番組とかニュース番組にだいぶ引っ張り出されまして(笑)。なんでうちに取材に来るのかって聞いたら、大阪で撮るからには大阪らしいスーパーにしたいと。大きいチェーンだと対応に時間がかかるらしいんですけど、うちは規模的にも話が早いらしいんです。一日に4社も5社も来て、朝から晩まで取材っていう時もあって、テレビ局の対応をしながら新聞社のインタビューを受けたりしてました(笑)」
――やはり大阪でスーパーといえばスーパー玉出だと。
「それもありますし、最初の緊急事態宣言が出た2020年の4月あたりは、うちは先手先手で対策を打っていたので、そこを取材しに来られたようでしたね。従業員がマスクと手袋をして、店内も定期的に消毒して、飛沫防止のシートを設置したり、店内を一方通行にしたり。そういう対策というのは、今でこそ普通になりましたけど、弊社はかなり早い時期から対応していたんです。というのは、うちは役員が3人しかいないので、その分、決定がスムーズで、決定すればすぐに進められる。規模も大手さんほど大きくないので、動きやすいわけです。あの頃は毎日のように感染者数が増えていったから、どんどん対策も追加していく必要がありました」
――たしかに、うちの近所にある大手のコンビニなんかはレジ前のビニールシートがかなり後になってやっと設置された記憶があります。
「レジの人たちっていうのは一日に何百人って接客するわけですよね。しかもあの頃はコロナっていうのが、どんなものだかまったくわかってなかったですから。スタッフは精神的にも大変だったと思います」
――そういった対策をしていく一方で、営業時間なども変更していたんでしょうか。
「いえ、変更はしていません。営業時間を短くしたら混んでしまいますからね。店舗によって朝に混む店もあれば夜が混む店もあるんで、店頭にポスターを貼って『この時間は混むので他の時間がおすすめです』ということが分かるようにしていました。24時間あいているからこそ、混雑していない時間を選んで来ていただくこともできる。そう思って、あえて営業時間は変えなかったんです」
――きっとなかなか判断の難しいところだったのではないかと思います。
「他のスーパーやデパートは営業時間を短縮していましたし、もちろん何度も検討を重ねました。ただ、私自身、その時期にデパ地下に行く機会があったのですが、ものすごく混んでいたんです。営業時間が短いのでお客さんがかえって集中してしまう。閉まる間際にすごく混雑したり」
――営業時間に間に合えばまだいい方で、会社に出勤している方だと帰る頃にはもうどこも開いてないとか、そういうこともありますもんね。
「ええ。トイレットペーパーなどが買い占められた時があったじゃないですか。うちはその影響がそれほどなくて、それは一部の店舗を除いて24時間365日、定休日なしで営業しているから、いつでも買えるっていう安心感があったからじゃないかと思いました」
「あと、2020年の緊急事態宣言の頃、大手のスーパーが軒並み新聞の折込チラシを出さなくなったんです。セールの情報で人が集まってはいけないという配慮だと思うんですが、スーパー玉出はセールの情報ではなく日々の生活に必要な情報を提供するという考えでチラシを出し続けました。というのも、お客様がチラシがないことで困っていたんです。みなさん、チラシを見て『今日は肉がこの値段なら、晩ごはんはこうしよう』とか、その日の献立を考えるんですよ。そうやって考えてから来ると買う物がだいたい決まっているので、必要な物をパッパッと買えるんですね。チラシがないと、店に来てみなければその日の価格がわからない。そういう意味では、チラシがある方が店内の滞在時間が短くなるんです」
――なるほど。むしろ買い物が短時間で済むようになると。
「そうなんです。そもそもスーパーのチラシって生活に必要な情報じゃないですか。お肉がいくらで野菜がいくらなのかとか、みなさん毎日の予算の中で献立を考えているわけで、それが『セールやめます。チラシもやめます』となったら、結局一番困るのは生活している人たちですから」
――特に外食がしづらい時期はスーパーの重要性が従来以上に増した気がします。
「スーパーって毎日の生活の一部みたいな、あって当たり前のもの。だからこそ今まで通り通常営業することで安心してもらえるんじゃないかと思いました。感染症対策はもちろん徹底してやらなければいけないんですが、営業時間が急に変わったりすると、毎日のように来てくださるお客様を不安にさせてしまうような気がするんです。だから可能な限り今まで通り営業することが大事だと思っていました。夜遅くまで働いている人もたくさんいますし。夜中営業しているタクシーの運転手さんが『コンビニ弁当しか食べられない。牛丼屋も閉まってる』ってぼやいているのを耳にしたりもしていましたから」
――売り上げの面では大きな変化はありましたか?
「店舗によってですかね。インバウンドが丸ごと無くなったので海外の方が多く買い物に来てくれていたような場所は影響が大きかったですね。新今宮とか、すぐ隣にホテルがあるので、コロナ以前はそこに宿泊している中国からの旅行客が大量に商品を買ってくれたりしてましたから。ただ、逆にインバウンドの影響がそもそも少ない店舗では、外食ができないというので逆にスーパーを利用する機会が増えたというお客様も多かったですね」
――なるほど、場所によってかなり違う。
「それこそこの辺り(株式会社フライフィッシュ本社のある大阪市西成区玉出中)は、近くにホテルや民泊があって、一時期は海外の人が多かったんです。今は地元に住んでる方たちだけっていう感じですよね」
「なんだかんだで、もう2年間もこんな感じですからね……。大阪にあるデザイン専門学校から、授業の一環で、学生さんたちが玉出グッズをモデルさんに持たせてスタイリングしてヘアメイクもして、スーパー玉出の前やお店の中で写真に撮って、それを作品にしたいっていう話があったんです。すごく楽しみにしてたんですが、最近も感染が急増して、密を避けなければいけない状況で撮影のために学生さんたちを営業中の店舗に滞在させるというのが難しくて、中止になってしまったんです。すごく残念だなーと思って」
――そうなんですね……。仕上がりがすごく見てみたかったお話だけに残念です。
「学生さんたちはもう卒業してしまうから、延期できないわけですよね。こういう時代に学生時代を送り就職活動をする学生さんたちも本当に大変だろうと思います」
2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。
プロフィール
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。