大阪府内で唯一の路面電車が「阪堺(はんかい)電車」だ。阪堺電気軌道株式会社が運営していて、新世界エリアにもほど近い恵美須町停留場から堺市西区の浜寺駅前停留場までを結ぶ「阪堺線」と、大阪市阿倍野区の天王寺駅前停留場から大阪市住吉区にある住吉停留場までを結ぶ「上町線」の2路線がある。どちらの線も南北方向に伸びていて、大阪市と堺市を結ぶことから「阪堺」の名がついた。
しかし、大阪で暮らす人からは「阪堺電車」という名称よりも、チンチン電車を縮めた「チン電」という愛称で呼ばれるのが一般的だ(たとえば私が「この前、阪堺電車に乗ったんだけど」と大阪の友人に言うと、ほぼ確実に「ああ、チン電な」と言い直される)。
上町線の方が古く、大阪馬車鉄道株式会社が1900年に開業した路線がベースになっている。一方の阪堺線は旧阪堺電気軌道株式会社が1911年に開業しており、どちらの路線も100年以上の歴史を持っている。
大阪に住み始めて以来、何度となく乗ったことのある阪堺電車だが、今回は久々に始点から終点まで乗り、車窓から町の様子を眺めてみようと思った。
2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。
プロフィール
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。