東京にアンテナショップを作りたい?
――こんな状況ですが、國枝さんが今後楽しみにしていることはありますか?
「そうですね……。うーん、玉出グッズはさらに充実させたいと思ってますけど(笑)。あ、玉出グッズを置いたアンテナショップをやってみたいんですよね。東京の有楽町辺りに地方のアンテナショップがたくさんあるじゃないですか。ああいう風に、スーパー玉出のアンテナショップを作ったら面白いんじゃないかなって。もう少し商品を増やして」
――いいですね! 銀座あたりでスーパー玉出グッズを身につけた人が歩いているという。
「まあ、もちろん夢物語ですけどね(笑)」
――いや、でもきっと喜ばれると思います。
「スーパー玉出が受け入れてもらえてるのは、やっぱり大阪だからというのが大きいんじゃないかと思います。私は関東の出身で、M&Aの時までさかのぼると玉出に関わるようになって5年ほどなんですが、大阪の人ってやっぱり親しみやすいなっていうのは感じます。関西で学生時代を過ごしてから大阪の人の温かさやノリが大好きになりました。うちの看板にしてもネオンにしてもロゴにしても、グッズもそうですし、あたたかい目で見てくれる。東京で同じ店を作ってもこんな風には見てもらえない気がするんです。大阪でこそ生きるんじゃないですかね。大阪って、人を傷つけるようなことでなければ、面白いものが正義になるというかね(笑)」
――そういうスーパー玉出の魅力を、関東から来た國枝さんが積極的にPRされているというのがまた面白いですね
「玉出に関わるようになった最初の頃、会議の席で私が玉出の魅力を一生懸命にアピールしたんですよ。そしたら『國枝さん、関東出身じゃなかった?』って言われて(笑)。むしろ外から見てるから余計なんでしょうね。大阪で生まれて、歩ける範囲にいつでも玉出があったら普通に感じるんでしょうけど。いきなり中に入ってみると『これは面白いなー』っていうものがたくさんあるんですよ。いまではすっかり社内でも一番の玉出マニアになってしまいました。社長を含む残りの役員が二人とも大阪育ちなので、大阪の内と外、両者の視点から意見を出し合えてちょうど良いんじゃないでしょうか(笑)」
取材を終え、「スーパー玉出 花園店」で夕飯のための買い出しをした。ギラギラとネオンに明るく照らされる店内を歩いていると、こうして肉や魚や野菜を買って料理して、とにかく元気に生きていかなくてはと、そんな気持ちが強く湧き上がってきた。
「今日は具だくさんの鍋を作って食べまくろう」そう決めた私は、買い物カゴに食材を詰め込んで会計を済ませ、持ってきたショッピングバッグにそれらを入れて肩に背負った。このバッグを肩にかけて町を歩いている時、私は大阪で生きていることを実感する。すれ違う人がたまに「あ、玉出バッグや!」と小声で言うのが聞こえたりして、ちょっと照れるような、誇らしいような、不思議な気持ちになる。
(つづく)
2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。
プロフィール
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。