「それから」の大阪 第21回

ニュータウンに残るマーケットと商店街のこれから

スズキナオ

 ある取材で、吹田市の桃山台という町を歩いていた。桃山台は全部で12住区から成る千里ニュータウンの南部にある住区のひとつで、1967年に住民の入居が開始された。

 住区の北側には大阪メトロ御堂筋線に直結する北大阪急行線の桃山台駅があり、交通の便がいい。梅田駅から20分ほど地下鉄に揺られていればもう着いてしまう。

北大阪急行線・桃山台駅周辺(2022年4月撮影)

 「大阪の中心地からこんなに近いんだな」と感じながら、桃山台駅周辺を散策した。私のその日の取材は、あてもなく桃山台あたりをうろうろして気になったスポットに立ち寄ってみるという行き当たりばったりのものだった。アザール桃山台というショッピングビルを眺めたり、春日大池という大きな池のある桃山公園で一休みしてみたり、千里ニュータウンの雰囲気を肌で感じながら歩いた。昼過ぎ、どこかで食事をとろうと思って再び桃山台駅周辺へと引き返す途中で「竹見台近隣センター案内図」という案内板を見かけた。

 竹見台はやはり千里ニュータウンの一つの住区で、桃山台に隣接している。桃山台のまちびらきの翌年である1968年に入居が開始されている。案内板を見るに飲食店などもあるようだったので、その「竹見台近隣センター」を歩いてみることにした。

竹見台近隣センターの一角(2022年5月撮影)

 竹見台近隣センターには歴史を感じるような雰囲気が漂っており、千里ニュータウンの中にこんな一角が残っていることに驚いた。ずいぶん昔から営業しているのであろう洋品店などもある。

洋品店「クローバー」の軒先(2022年5月撮影)

 また、商店が立ち並ぶエリアに隣り合って「竹見台マーケット」という建物があり、その中に入ると八百屋、果物屋、精肉店などが営業しているのが見えた。

「竹見台マーケット」の入り口付近(2022年5月撮影)

 私の勝手な先入観で、千里ニュータウン内には大型スーパーやショッピングビルばかりがあって、この町で暮らす人々はそういうところで買い物をするのだと思っていた。このような、個人店が並ぶ古い一角が今も残っているなんて、予想だにしなかったのである。

 マーケット内に「小西食品」という豆腐屋があり、店先をのぞいているとお店の方に話しかけられた。丸い形が珍しい「朝一取豆腐」と、「生ゆば」が名物だというので買ってみることにした。「朝一取豆腐」が丸い理由をたずねてみると「四角い豆腐じゃ面白くないでしょう?『これ、チーズですか?』ってよく聞かれるよ」とのこと。このマーケットの建物はもう50年以上も前に建てられたもので、買い物に来るおばあさんが「ここは私が若い頃にできたんよ」と思い出話を始めたりするらしい。

マーケット内には生鮮品を扱う個人店が並ぶ(2022年5月撮影)

 同じくマーケット内の鶏肉屋「とり新」で唐揚げなども買い、家に帰って食べてみると、小西食品の豆腐や生ゆばも、とり新の唐揚げもすごく美味しかった。千里ニュータウンにあって昔の雰囲気を残している竹見台近隣センターに興味が湧いた。

美味しかった「小西食品」の豆腐屋生ゆば

 その後、千里ニュータウン関連の資料が集まる施設「千里ニュータウン情報館」の曽谷さんに出会い(そこで伺った話は当連載の第20回「千里ニュータウンの昔の話」に書いた)、その歴史について教えていただくとともに、各住区にある近隣センターのことも詳しく聞いた。それによると、近隣センターは商業施設の集合地として各住区に一つずつ作られたもので、どこもまちびらきと同時にオープンしているという。ただ、時代の流れによってその中身は様々な変遷をたどっており、竹見台近隣センターのように個人店が残っている場所は少なくなっているらしい。

 「近隣センターを軸に千里ニュータウンを見ていくと、新しい発見があるかもしれません」という曽谷さんの言葉に背中を押されるようにして、私は竹見台近隣センターを改めて取材することにした。

次ページ 飲食店がファンシーショップになり、また飲食店に
1 2 3
 第20回
「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

関連書籍

「それから」の大阪

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル

プラスをSNSでも

Twitter, Youtube

ニュータウンに残るマーケットと商店街のこれから