21世紀のテクノフォビア 第2回

フランケンシュタインの怪物とクローン恐竜(前編)

速水健朗

■琥珀の中からDNAは取り出せるのか

琥珀に閉じ込められた蚊に残された恐竜の化石からDNAを取り出し、恐竜を復活させるというアイデアは、『ジュラシック・パーク』の核心だった。映画でもこの説明のアニメーションは重要な場面として詳細に描かれた。

ちなみに、琥珀から古代の生物を復活させるアイデアは、クライトンよりも前、アメリカの作家のチャールズ・ペレグリーノが発表したものだ。大衆向けSF誌の『オムニ』誌に1985年に書いた​​「恐竜のタイムカプセル」という記事。ペレグリーノは、抜群のアイデアを描くことができるが自然科学専門誌には相手にされなかった。生物科学の研究者も恐竜のタンパク質が抽出できるといった話をまともにうけとめるものはいなかったのだ。

それから40年近くが経ち、その常識に変化はあったか。「数千年前のDNAの長期的保存を示す説得力のある証拠は存在しない」(『こうして絶滅種復活は現実になる』)というのが現時点での自然科学研究者の答えだ。現状、全ゲノムが記録されている最古の例は、カナダの永久凍土中で凍結していた70万年前の”馬の骨”のものだという。恐竜の絶滅は6500年前。かなり時代の違いがある。

ただし進展もある。2015年6月9日、ロンドンの科学者が7500万年前の恐竜の骨から組織構造を取り出したと報告した。この発表は、『ジュラシック・ワールド』(シリーズ4作目、リブートでは1作目)の世界公開当日のことだったという。ただしこれはDNAを示す証拠ではなく、タンパク質が保存されている証拠。ちなみに、1993年の第一作目の公開の前後にも、1億年以上前の昆虫のDNA抽出に成功したというニュースに沸いたという。どちらも偶然というわけではない。

注目を集めることも科学研究分野にとっては、重要な課題のひとつだ。そんな状況を踏まえ、科学史学者のエリザベス・D・ジョーンズは、「セレブリティ科学」という言葉を使う。現代のアスリートたちがメディアからの取材をコントロールして波風を避けるのと同じように、科学研究もメディアを無視できない。「セレブリティ科学」はメディアとの結びつきが強い研究分野を指す。宣伝利用の話だけでなく、間違った知識を広めないような工夫といったところも含めての造語である。

現代の恐竜人気を生みだした『ジュラシック・パーク』も1作目から30年が過ぎ、その間に遺伝子工学も進歩し、クローン生物の登場が話題を集めたこともあった。1990年代末からそれを規制する法律も世界的に整備されている。

現代の技術であれば、ジュラシックパークは実現可能性は高まっているのではないか。そう考えたアメリカの起業家、マックス・ホダックが2021年4月10日にTwitterでこのようにつぶやいている。

「we could probably build jurassic park if we wanted to. wouldn’t be genetically authentic dinosaurs but maybe 15 years of breeding + engineering to get super exotic novel species」

「やろうと思えば、ジュラシックパークは作れるさ。遺伝子的に正統な恐竜じゃなければね。飼育とエンジニアリングで15年あれば、エキゾチックな新種がつくれるかもね。」

ホダックは、イーロン・マスクと一緒にニューラリンク社を創業した起業家。映画であれば、テクノロジーを過信し、そのしっぺ返しを受けるタイプの登場人物のセリフである。恐竜に食われなければいいのだが。

<参考文献>

『世界恐竜発見史―恐竜像の変遷そして最前線』ダレン・ネイシュ著、伊藤恵夫監修

『地球に落ちてきた男 スティーブン・スピルバーグ伝』ジョン・バクスター著、野中邦子訳

『こうして絶滅種復活は現実になる 古代DNA研究とジュラシック・パーク効果』エリザベス・D・ジョーンズ、野口正雄 訳、原書房

1 2 3
 第1回
第3回  
21世紀のテクノフォビア

20年前は「ゲーム脳」、今は「スマホ脳」。これらの流行語に象徴されるように、あたらしい技術やメディアが浸透する過程では多くの批判が噴出する。あるいは生活を便利なはずの最新機器の使いづらさに、我々は日々悩まされている。 なぜ私たちは新しいテクノロジーが生まれると、それに振り回され、挙句、恐れてしまうのか。消費文化について執筆活動を続けてきたライターの速水健朗が、「テクノフォビア」=「機械ぎらい」をキーワードに、人間とテクノロジーの関係を分析する。

プロフィール

速水健朗

(はやみずけんろう)
ライター・編集者。ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会について執筆する。おもな著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)『1995年』(ちくま新書)『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)などがある。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

フランケンシュタインの怪物とクローン恐竜(前編)