21世紀のテクノフォビア 第2回

フランケンシュタインの怪物とクローン恐竜(前編)

速水健朗

20年前は「ゲーム脳」、今は「スマホ脳」。これらの流行語に象徴されるように、あたらしい技術やメディアが浸透する過程では多くの批判が噴出する。あるいは生活を便利にするはずの最新機器の使いづらさに、我々は日々悩まされている。
なぜ私たちは新しいテクノロジーが生まれると、それに振り回され、挙句、恐れてしまうのか。消費文化について執筆活動を続けてきたライターの速水健朗が、「テクノフォビア」=「機械ぎらい」をキーワードに、人間とテクノロジーの関係を分析する。
今回はテクノロジーによる「生命創造」について。『フランケンシュタイン』から、『ジュラシック・パーク』まで、人間はどのように「人工でつくられた生命」を欲望し、それを恐れてきたのだろうか。

■恐竜の存在に人が気がついたのはいつのことか

全国のあちこちで恐竜展が開催され、NHKラジオの番組「子ども科学電話相談室」でも夏場には恐竜の質問回が定番。恐竜は、花火、ビール、甲子園、山下達郎と並ぶ夏の風物詩。すでに絶滅した巨大生物がなぜこんなに人を引きつけるのか。とはいえ、その存在に人類が初めて気がついたとき、どれだけの驚きがあったのだろう。

恐竜は6500万年の間、ずっと絶滅していたわけだが、人がそれに気がついたのは200年前のこと。1824年にイギリスの地質学者ウィリアム・バックランドがのちにメガロサウルスと命名される巨大絶滅動物の骨を発見し報告したのだ。

メガロサウルスを発見したバックランドは、もちろん恐竜を見つけようと思って掘っていたわけではない。彼が掘り当てたかったのは、旧約聖書に出てくるノアの大洪水の痕跡だった。当時の地質学者たちは、地中を掘り起こし、過去の年代の地層を探求し、地表の成り立ちを解明しようとした。そして、聖書の出来事が本当にあったと証明することが使命でもあった。

恐竜が発見された1824年はどんな時代か。ヨーロッパでは、ベートーヴェンの「交響曲第9番」の歴史的な初演があった。オペラ『セビリアの理髪師』や料理の「ロッシーニ風」で有名なロッシーニがパリのイタリア座の音楽監督に就任するのもこの年。哲学者のヘーゲルは、9月にロッシーニの公演を見るためにベルリンからウィーンに旅に出た。道なりで約600キロ。馬車の旅だ。まだ人を運搬する鉄道は開通していなかった時代。

バックランドがメガロサウルスを見つけた翌年には、イグアノドンの発見が報告される。当時、活躍したのは、地質学者だけでなく、発掘マニアや発掘品のコレクターらだった。転売目的で掘り出されていた骨を研究者たちが買い取り、それがどのような生物だったのかが復元されていく。

ただし、当時のメガロサウルスもイグアノドンも四足の草食動物、つまり、トカゲやイグアナ、サイなどの大きな動物の一種くらいだと思われていたようだ。サイズも10メートルくらいと、小さめに見積もられた。

当時の恐竜の復元図を見ると少し間が抜けた生き物のような印象を受ける。動きもにぶそう。単に絵の出来が悪いのもあるが、主には生物への理解が足りなかった。その後、メガロサウルスやイグアノドンが肉食であり、二足歩行するということがわかった。恐竜のことがわかればわかるほど魅力が高まっていく。ちなみに。肉食恐竜最大のティラノサウルスレックスが北米で発見されたのは1900年前後のこと。世界がこの発見に沸いたであろうことは想像に難くない。

時代ごとの恐竜人気は、研究費の増減にも影響した。研究によって恐竜の魅力的な部分が引き出されると、人気も集まり、研究予算も大きくなる。逆に不人気だった時代もある。1940〜1950年代は恐竜人気が低迷期し、いくつもの研究が打ち切られた時期だ。もちろん、恐竜を題材にした小説や映画”恐竜ポップカルチャー”も人気を左右することもある。

恐竜発見史の中でも、大きな転機は、恐竜恒温説が注目された1970年代なかば。それ以前の”にぶそうな生き物”としての恐竜像が払拭され、凶暴で活動的で頭もいい、そんな恐竜像がここで生まれているのだ。

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20年前は「ゲーム脳」、今は「スマホ脳」。これらの流行語に象徴されるように、あたらしい技術やメディアが浸透する過程では多くの批判が噴出する。あるいは生活を便利なはずの最新機器の使いづらさに、我々は日々悩まされている。 なぜ私たちは新しいテクノロジーが生まれると、それに振り回され、挙句、恐れてしまうのか。消費文化について執筆活動を続けてきたライターの速水健朗が、「テクノフォビア」=「機械ぎらい」をキーワードに、人間とテクノロジーの関係を分析する。

プロフィール

速水健朗

(はやみずけんろう)
ライター・編集者。ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会について執筆する。おもな著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)『1995年』(ちくま新書)『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)などがある。

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フランケンシュタインの怪物とクローン恐竜(前編)