ウクライナの「戦場」を歩く 第11回

ウクライナの人々の避けられない変化

根づき始めた「憎しみ」と出口のない「疲弊」
伊藤めぐみ

ロシアがウクライナに全面的な軍事侵攻を開始してから2月24日で2年になった。2014年のクリミア併合や、ドンバス紛争から数えれば10年になる。

さらなる長期化への懸念と増え続ける死者を前に、ウクライナの人は現状についてどう考えているのか。侵攻直後の2022年春に現地で取材した若者や、前線近くで支援活動を行なってきた人たちを改めてリモート取材し、その変化について尋ねた。

日常になった戦争

ソフィア・コズロヴァ(23)は、西部リビウの芸術アカデミーで学ぶ学生だ。初めて会った時の彼女は、七分刈りの髪に黄色いニット帽の下を被り、鼻ピアスをして、いかにも芸術学部といった雰囲気を醸し出していた。

先日、卒業式があったというので画面越しにお祝いを伝えると、

「ありがとう!卒業式の衣装に憧れていたから着られて嬉しかった」

と照れたように笑った。

彼女は東部ドニプロ州出身で、2022年の戦争前からリビウに暮らしていた。2年前に現地で取材した時と変わらず、学生のボランティア・グループを運営していた。前線の兵士のために、戦車や見張り台などを隠すためのカモフラージュ用の迷彩柄のネットを制作している。

ウクライナではロシアの全面的な侵攻が始まってから、多くの一般の人たちがボランティアとして前線の兵士や、避難民を支援する活動を行っている。

迷彩ネットを作る合間のソフィア(写真:Savonik Nazar)

ソフィアたちは、通常の迷彩ネットに加えて、冬の間は、降り積もった雪の色に似せた白い迷彩ネットや暖をとるための特殊なキャンドルや着火剤も作ってきた。2年の間の変化について尋ねると、

「服を買う時、迷彩ネットに使えるような地味な服を無意識のうちに選ぶようになっていた」

と、冗談めかして答えた。日常に戦争があることが当たり前になっているのだ。

ただ、まわりの人たちの様子は少しずつ変わってきているという。

「戦争が始まった頃のようには、人は熱心にはかかわれなくなってしまった。寄付も人手も減っている。私も貯金を全部使ってしまった」

ソフィアたちのグループが、大学の施設の一部を使って迷彩ネット作りをしていたところ、もともと使っていたスポーツクラブの学生たちに出ていってほしいと言われたそうだ。

「戦争について意見の違いはない。誰がこの場所を使うかという問題があっただけ。それに彼らの言うこともわかる。侵攻直後の頃とは違うし、みんなが仕事をして国に税金を納めるのも、国を再建するために勉強するのも必要だから。日常も大切。でも、少し悲しかった」

雪が積もった時用の迷彩柄のネット(ソフィア提供)
迷彩ネットを作るソフィアと仲間たち(写真:Savonik Nazar)
塹壕で使う特別なキャンドル(写真:ソフィア)
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 第10回
ウクライナの「戦場」を歩く

ロシアによる侵攻で「戦地」と化したウクライナでは何が起こっているのか。 人々はどう暮らし、何を感じ、そしていかなることを訴えているのか。 気鋭のジャーナリストによる現地ルポ。

プロフィール

伊藤めぐみ

1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社に入社し、テレビ・ドキュメンタリーの制作を行う。2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。その他、ベトナム戦争や人道支援における物流などについてのドキュメンタリーをNHKや民放などでも制作。2018年には『命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。現在、フリーランス。イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程への留学経験がある。

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