WHO I AM パラリンピアンたちの肖像 第3回

義足で立ち上がったエリー

双子の妹が、彼女の負けん気に火をつけた

木村元彦
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(C)Paralympic Documentary Series WHO I AM

妹ができることは何でもやる

 エリーはいつも決然としていた。双子ゆえに妹のブリットが何かの遊びを覚える度に同じことをやりたがった。ブリットが三輪車に乗れば断固として同じように乗りたがった。ドンは片足でも焦げるようにペダルを左足にガムテープでグルグルに固定した。三輪車に乗れると続いて補助輪つきの自転車、そしてスケートボード、最後はアイススケートまでこなした。

 それをブリットは助けた。何かに挑戦しては転んでいるエリーを抱き起こしているブリットの映像が、ドンが撮影したホームビデオには数多く納められている。

 医師はエリーの挑戦を最初からそれらは無理だと言っていた。

 ジェニーもまた「一本しかない足を自転車やスケートで折ってしまわないか」と常に心配はしていた。しかし、一度たりともそれを止めることはしなかった。

 そしてエリーは妹ができることは何でもやり遂げた。ドンは言う。

 「ですから、エリーのように切断といういきなりの障害を持った子どもがいた場合、願わくば、その子が双子であればと思うのです。兄弟と同じことをやってやろうというモチベーションは及ぼす影響がとても大きいのです」

 まるで何事も無かったかのように、積極的にもの事に取り組み続けるエリーの姿を見て、周囲の大人たちは、ガン発症時が2歳という物心がつく以前のことであり、彼女は記憶が無く、事態を理解していないのではないかと思ったかもしれない。しかし、そうではない。エリーはテレビドラマや映画を観ていて、登場人物が癌であると診断されるシーンが出てくると、涙が3日ほど断続的に止まらなくなるのだ。強烈なトラウマが彼女の中に残っていることは、想像するに難くない。 

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WHO I AM パラリンピアンたちの肖像

内戦で足を失った選手、宗教上の制約で女性が活躍できない国に生まれたアスリート……。パラリンピアンには、時に五輪選手以上の背景やドラマがある。共通するのは、五輪の商業主義や障害者スポーツに在りがちなお涙頂戴を超えた、アスリートとしての矜持だ。彼らの強烈な個性に迫ったWOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。番組では描き切れなかった舞台裏に、ノンフィクション執筆陣が迫る。

関連書籍

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プロフィール

木村元彦

1962年愛知県生まれ。中央大学文学部卒業。ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト。東欧やアジアの民族問題を中心に取材、執筆活動を続ける。著書に『橋を架ける者たち』『終わらぬ民族浄化』(集英社新書)『オシムの言葉』(2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞作品)、『争うは本意ならねど』(集英社インターナショナル、2012年度日本サッカー本大賞)等。

 
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