プラスインタビュー

想像力で翻訳する身体の記憶

『記憶する体』著者・伊藤亜紗氏インタビュー

伊藤亜紗
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誰もが無意識に持っている自分の身体のローカルルール(固有の習慣)、それを「人生の途中で、病気や怪我で障害を得た」中途障害者たちの11のエピソードのうちからさぐる著書『記憶する体』(春秋社)が関心を集めている。著者・伊藤亜紗さんを東京工業大学に訪ねた。

にこやかに出迎えてくれた伊藤さんの研究室は、一方の壁面には哲学書がぎっしり、もう一方の壁には美術書がみっしりと並べられていた。なぜかテーブルの上には、円筒形の、キッチンペーパーのロールが置いてあるのが気になったが、まず著書の第一印象を正直に伝えた。

 

――『記憶する体』の最初のエピソードで紹介された、まるで目が見えるかのようにすらすらとメモを取る全盲の女性には驚きました。

伊藤 私も初めて見た時には驚きました(笑)

――他にも、交通事故で左足膝下を失いながら、ないはずの足を使って踊るというダンサー(エピソード3)や、背後の物音など聴こえないはずなのに気配を感じ取る聴覚障害者(エピソード5)など、障害者についての一般のイメージと違う人たちが登場して驚かされます。

伊藤 健常者が障害者と関わる時に、一番大事だなと思うのは、健常者が変わることです。ふつうは健常者側から「これが正解で、こうしてあげるのがこの人にとって良いことだ」みたいな、健常者から見た「正解」を、障害者にあてはめるだけなんです。それがすごく嫌なんですね。

東京工業大学准教授・伊藤亜紗氏

よく「配慮の壁」と言いますが、健常者の「してあげよう」「配慮しましょう」ということが、障害者を枠に閉じ込めてしまうということがあります。障害のある人にとってはいつも受け身で、介助に付き合わされる感みたいなものがあるわけです。

そうではなくて、むしろ健常者の側の当たり前が壊れる経験、「思ってたのと違った!」みたいな(笑)。「あ、自分も身体をそんなに使えてないかも」と思ったりとか、そういう、健常者が変わる経験みたいなものがあるといいな、と思っています。出会った時に自分も衝撃を受けたいし、相手にも衝撃があって欲しい。そういう意味での対等さが、自分にとっては面白い。

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記憶する体

プロフィール

伊藤亜紗

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学、現代アート。著書に『ヴァレリーの芸術哲学、あるいは身体の解剖』(水声社)『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)『目の見えないアスリートの身体論』(潮出版社)『どもる体』(医学書院)などがある。最新著は『記憶する体』(春秋社)

最新研究:「見えないスポーツ図鑑」 https://mienaisports.com/

 

 
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