――現代実在論のどういうところがメランコリー世代に歓迎されるのでしょう。
岩内 ポストモダン思想の特徴は近代に対する徹底した批判にありました。近代国家の暴力、つまり植民地支配も、社会的-文化的マイノリティへの差別と抑圧も、近代的な理念の実現という美名のもとに行われてきたことを暴きだしたのです。そうした暴力を支えてきた合理性とか普遍性とか進歩とかの理念を、今や我々は無邪気に信じることはできない。
ところが、メランコリーの時代を生きる世代にとっては、それはすでに当然のことになっていて、「いや、それはわかっているんだけど、じゃあどうしたら良い社会にしていけるのか、自分はどう生きていったらよいのか」というわけです。そのための具体的な手がかりを求めています。
――現代実在論はそんな若者の問題意識に応えてくれるというわけですか?
岩内 極端に類型化するなら、ポストモダン思想が「近代の理念は幻想にすぎない」と指摘することに力点を置いていたのに対し、現代実在論は、何を実在するもの(現実)として考えるべきかを明らかにしようとしています。
マルクス・ガブリエルは、自由とか人権とか民主主義というものの実在についても考えています。それらは単なる理念ではなく、ある意味でリアリティを持っていると主張するのです。
例えば、自由とは近代社会の生んだ幻想だとか、大脳の作り出したものだとかと考えることはできますが、だから本当は人間に自由などないのだということにはならない。自由とか人権というのは、我々個々人の認識の在り方に応じて否定されるようなものではなく、現に個々人の自由を前提にして社会生活が営まれているわけです。
自由とか人権は、確固とした、ある程度の正当性をもってこの社会にあるのだということをガブリエルは伝えようとしていると理解しています。
プロフィール
1987年生まれ。早稲田大学国際教養学部助手を経て、現在、早稲田大学ほかで非常勤講師を務める。主な論文に「思弁的実在論の誤謬」(『フッサール研究』第一六号)、「判断保留と哲学者の実践」(『交域する哲学』月曜社)など。2019年10月に刊行された『新しい哲学の教科書 現代実在論入門』(講談社選書メチエ)が初の著作となる。