――それはある意味できわめて常識的な態度のように思います。
岩内 そうです。普通の人間の感じていることを汲み取ってくれる哲学だと思います。しかも普通の人間が、今、必要としている基礎的な考え方です。それをガブリエルは、特に一般向けの『なぜ世界は存在しないのか』とか『私は脳ではない』(いずれも講談社選書メチエ)では強調しています。これは哲学的には素朴とも言える考え方ですが、その素朴さは確かに一つの希望になっています。
自由とか民主主義とかが実在するというのは哲学的には素朴ですが、ただ、ポストモダン思想のように、それを根底から考え直すとかというと、若い人間はどうもついていけないんです。生きている実感にそぐわない。
私自身は民主主義を根本から考え直すことは大事だと思っていますが、しかしガブリエルはそのことをいわばすっ飛ばした。それよりは今ある民主主義を土台にしながらそれをバージョンアップさせることに力を注いだ方がよいというのが彼の考えです。このリアリズムが若い世代に受けたという感じもあります。
というのも、今の若い世代には、世の中のために何かしたいという欲望も少しずつ芽生え始めているからです。特に大学に新入生で入ってくる若者は「どうしたら戦争を終わらせられるか、資源の有限性の問題を解決できるのか」と、こういう問題意識も確実に持っている。
そこで必要になってくるのが「普遍性」という言葉なんです。簡単に言えば、誰にとっても納得できること。ガブリエルの「新しい実在論」の道具立てには、そういうものをちゃんとバックアップするような概念があります。
プロフィール
1987年生まれ。早稲田大学国際教養学部助手を経て、現在、早稲田大学ほかで非常勤講師を務める。主な論文に「思弁的実在論の誤謬」(『フッサール研究』第一六号)、「判断保留と哲学者の実践」(『交域する哲学』月曜社)など。2019年10月に刊行された『新しい哲学の教科書 現代実在論入門』(講談社選書メチエ)が初の著作となる。