プラスインタビュー

なぜ本は「3冊セット」で読むべきなのか

「本」から時代の特徴を読み取るコツとは
斎藤美奈子

この秋にほぼ同時のタイミングで出版された斎藤美奈子さんの『中古典のすすめ』(紀伊國屋書店)『忖度しません』(筑摩書房)は、いずれもユニークな書評集だ。 

前者の「中古典」とは、「中途半端に古いベストセラー」のこと。後者では「3冊セットで本を読め」という読書の作法が提案されている。この二冊の刊行を機に、著者の斎藤さんにお話をうかがった。

 

――毛色の異なる書評集が同時に出ましたね。

斎藤 この二冊は書評集というより、もう少しヒネリの入った本、読書への入り口やアプローチの仕方を提案する本かもしれない。入口は多いほうがいいですからね。

以前に『趣味は読書。』(平凡社、後にちくま文庫)という本を出したときは「本当のベストセラー」ばかりを読みました。あの本のコンセプトは「本屋でよく見かけるあの本には、いったい何が書いてあるのか。忙しいあなたのために、私が代わって読みましょう」だったんですが(笑)。

『趣味は読書。』も書評集ではありますが、他の真面目な書評家たちが絶対に読まないような本――ずいぶんくだらない本もありました――のエッセンスが、伝わればいいなと思ったんです。あのときに比べると、今回の2冊は自分自身でも読むことを楽しみつつ書きました。

――「中古典」という言葉はインパクトがありますね。古典になりそこねて忘れ去られた「中古典」が、これでもかというほど出てきます。

斎藤 本が出てすぐに読んでくれた友人から、「私たちの世代の本ばかり。懐かしい!」という反応がたくさん来ました。いま50代後半から60代くらいの人には、たとえ読んでいなくても、「あの時代の景色の中にあった本だ」という記憶がある本が多かったみたいです。

文芸評論家・斎藤美奈子氏(撮影:内藤サトル)

紀伊國屋書店のPR誌「scripta」での連載をはじめた頃は、媒体の性質も意識して新刊書店で手に入る「現役」の本だけを選んでいました。でも途中からその縛りはやめました。古本で読んでくれてもいいし、電子書籍での復刊も増えてきたからです。

ただ連載中は、山口瞳の『江分利(えぶり)(満(まん)氏の優雅な生活』や田辺聖子の『感傷旅行』あたりの「中古典」は、とても手に入れにくかったですね。田辺聖子は文化勲章までとったほどの大作家なのにずっとB級扱いされていて、文庫になっては店頭から消え、また文庫に入っては消え……の繰り返しでした。

 

(注)『江分利満氏の優雅な生活』:昭和30年代の典型的サラリーマンである主人公・江分利満氏(”every man”にかけていると思われる)による生活の描写を通して、高度成長期前後の一時代を描いた、第48回直木賞受賞作。

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プロフィール

斎藤美奈子

文芸評論家。1956年、新潟県生まれ。児童書等の編集者を経て、1994年に文芸評論『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で第一回小林秀雄賞受賞。他の著書に『紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』(ちくま文庫)、『モダンガール論』(文春文庫)、『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマ―新書)、『日本の同時代小説』『文庫解説ワンダーランド』(いずれも岩波新書)、『中古典のすすめ』(紀伊國屋書店)、『忖度しません』(筑摩書房)など多数。

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