━━そんな「顔の見える」環境の中で、現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
鈴木 僕がこれまでずっとやりたかったことのひとつが、「あなたの夢、応援します!」というプロジェクトです。先程も言ったように、土佐町には子どもの絶対数が少ないという課題があります。でも、逆に言えばせっかくこれだけしか子どもがいないんだから、本気でやったら超エリート教育ができる。それこそ、一人ひとりの違う夢を、それぞれプロジェクトチームを組んで支援できるよね、と。
小学生でも、既に明確な夢を持っている子どもがいます。その子たち一人ひとりの夢を、大人たちが全力でバックアップしよう、という取り組みです。
たとえば、学校の勉強の成績は良くないんだけれども、物を作るのが大好きで、手先がとても器用な男の子がいます。そんな彼のためにプロジェクトチームを組みました。僕はもちろん、社会福祉協議会の事務局長や職人さんなんかが入ってくれています。
ある時、彼を竹細工職人の仕事場に連れて行ったんです。竹細工を作る時に、デザイン通りに竹をくり抜いていくと、どうしても捨てる部分が出てきます。それがたくさん残っていました。
そこで職人さんが「はい。これ好きに使ってごらん」って、余りものを彼に渡したところ、彼はそのくり抜いたものを鱗(うろこ)にして魚をデザインしたんですよ。これがまた素晴らしくて、職人さんも「面白い」って言ってくれました。
もう一人、英語が好きで、将来は英語を使って海外で働きたい、という6年生の女の子もいます。読めるようになりたい!と言って持って来たのは、にしのあきひろの『えんとつ町のプペル』。 まずは僕の方で英語で読み語りをしてから、「好きなシーンを一つ選んで、そのページを読めるようになっておいで。わからない単語はネットで発音を調べるんだよ」とだけ伝えたら、次に会った時には自分の好きなシーンをすらすら読めるようになって来ました。高校生レベルの英文ですよ。
そして、ついこの間は、9年間をアメリカで過ごして来た5年生の私の長女とペアになって、アメリカの名曲を日本語に翻訳するという課題を与えました。英語はうちの長女の方ができるけど、日本語はもう一人の6年生の子の方が上手。その二人がああでもないこうでもない、「それちょっとダサいよね」などと笑いながら一生懸命やっていました。そのうちこの子たちが、まだ海外に出たことのない日本の名作と呼ばれる絵本を翻訳・出版する日が来るかもしれませんよ。
プロフィール
教育研究者。1973年神奈川県生まれ。16歳で米ニューハンプシャー州の全寮制高校に留学。そこでの教育に衝撃を受け、日本の教育改革を志す。97年コールゲート大学教育学部卒(成績優秀者)、99年スタンフォード大学教育大学院修了(教育学修士)。その後日本に帰国し、2002~08年、千葉市の公立中学校で英語教諭として勤務。08年に再び米国に渡り、フルブライト奨学生としてコロンビア大学大学院博士課程に入学。2016年より、高知県土佐郡土佐町に移住。現在、土佐町議会議員を務める。主著は『崩壊するアメリカの公教育:日本への警告』(岩波書店)。