━━最後に、今後の展望と、これから行おうと考えている活動について教えてください。
鈴木 まずは地方と地方をつなぐムーブメントをどんどん作っていきたいですね。たとえば、今年(2018年)の1月5日から8日にかけて、土佐町で大規模な教育合宿をやりました。これまで講演会で色々な場所に呼んでもらってきたのですが、その度に「土佐町も良い所だから次は土佐町で飲みましょう!」って言い続けてきたんです。そうしたら、それが本当に実現して。北海道から九州まで、21都道府県から教師や教育学研究者が50人集まって、「土佐町で日本の教育の未来を考え、飲んで語り合う合宿」というイベントをやりました。
たとえば秋田からは秋田県教職員組合の方々が来てくれて。「学力ナンバーワン」と呼ばれてきた秋田の先生たちが点数競争に疲弊していて、教育のあり方に疑問を呈する声があがっていると報告してくれました。僕はそういう現場の生の声をみんなに聞いてもらって、広めたかったんですね。
1月のイベントは僕が実験として個人的にやったので、ろくに宣伝もしなかったんですが、夏(7月28日~30日)には僕が現在所属するNPO法人SOMAに加え、役場の産業振興課、教育委員会、社会福祉協議会、土佐さめうら観光協会、土佐酒造の後援を得て、全都道府県から教育関係者を招き、町全体でおもてなしするつもりです。そうして、その中で地方の教育に熱い人たちをつないで、語り合っていきたいです。
もうひとつは、「教育」と「幸せ」の関係を一から考え直すということです。今はどうしても、教育と経済、年収、そして「成功」というものを常に結びつけて論じられている印象を受けています。教育は経済的なリターンを得るための「投資」であり、最終的にどれだけの稼ぎを得られたかによって評価が決まる。そのような偏った価値観が蔓延する一方で、教育と「幸せ」というものは全然結びつけられていないんですよね。
土佐町に住んでいると「幸せってこういうものだよね」っていう姿がすごく明確に見えて来ます。それは必ずしも都会的な経済的成功とは一致しないけれども、大きな可能性を秘めているように思える。そういう風に地方からジワジワと、「幸せ」のビジョンを打ち出しながら世論の流れを変えていきたいですよね。
プロフィール
教育研究者。1973年神奈川県生まれ。16歳で米ニューハンプシャー州の全寮制高校に留学。そこでの教育に衝撃を受け、日本の教育改革を志す。97年コールゲート大学教育学部卒(成績優秀者)、99年スタンフォード大学教育大学院修了(教育学修士)。その後日本に帰国し、2002~08年、千葉市の公立中学校で英語教諭として勤務。08年に再び米国に渡り、フルブライト奨学生としてコロンビア大学大学院博士課程に入学。2016年より、高知県土佐郡土佐町に移住。現在、土佐町議会議員を務める。主著は『崩壊するアメリカの公教育:日本への警告』(岩波書店)。