プラスインタビュー

日本が世界に誇る“ノマド”的ギタリスト、村治佳織の今。

村治佳織

インターナショナル・レーベル「デッカ・レコード」移籍から20年

──3デイズライヴの少し後に行われた同会場でのドミニク・ミラー(アルゼンチン出身のギタリスト。30年以上、ロックミュージシャン/スティングのサポートギタリストも担う)の来日公演にも行かれたそうですね。

彼とはデッカ移籍第一弾アルバム『トランスフォーメーション』(2004年)で初めて共演しました。
4月もスケジュールは立て込んでいましたが、公演前日にドミニクからメールをいただき、ご本人からお誘いいただいたら行くしかない! と思って。
行ってよかったです。相変わらず音楽性がかっこよくて。メンバー全員のタイム感が心地よかったです。7拍子の曲とかもあったりしましたが、かつてアルバムで一緒に共演した「フラジャイル」と「悔いなき美女」の両方がセットリストに入ってたので、これはもうデッカ移籍20年の天から自分へのプレゼントだなと思って聴きました(笑)。

この日のライヴで学んだことは、持ち曲は何十年経っても弾くべきだなって。お客さんも喜びますし、私にとってのそれは「カヴァティーナ」だったり「サンバースト」かもしれませんが、そうした選曲をセットリストのどこに持ってくるかも参考になりました。
全体のプログラミングが巧みで、2日目はノート広げ、ステージ構成を勉強しようとメモしました(笑)。
私、メモが好きで、この30年間もいっぱい記録してますよ。たまに読み返して感じるのは、使う言葉や思っていることの芯はあんまり変わってないなぁと。

ドミニクからも相変わらずギターが大好きということが伝わってきますし、改めて思うのはジャンルを超えて音楽を心から愛しておられること。彼は今でも「バッハが一番好き」って言うんですよ。初めてお会いする前、ドミニクのプロフィールにはバッハが好きだと書いてあったから、それなら一緒に楽しくレコーディングできると直感したんです。
『トランスフォーメーション』のリハーサルのときには彼のリズムのシビアさを感じました。漠然とクラシック系ミュージシャンの方がリズムのキープに関して神経質かも? と思ってたんですけど、実はロック畑の人の方が正確なリズムキープに拘ることが、ある意味意外でびっくりした思い出があります。

──リット(リズムをだんだん遅く)するみたいなことはあまりないんですよね。クリック(メトロノームなどで出すテンポのガイドとなる音)は使ったんですか?

リット、ないんですよね。そしてあのときクリックは使わなかったですね。常にドミニクが自分の足で拍を刻んでいたのを思い出します。
そのドミニクがいたからこそのご縁で、東京ドームの楽屋でスティングともお話ができましたし。

余談ですが、そこからまた何年か経って、去年の東京ドームで今度はコールドプレイ(イギリス・ロンドン出身ロックバンド)のクリス・マーティン(ヴォーカリスト)とお話できたんです。
実はそれまでコールドプレイは全然聴いてなかったんです。BTS(韓国の7人組アイドルグループ)と共演されたことも後から知って。
クリスが何かのストリーミングサービスで私の演奏を聴いて気に入ってくれて、ご連絡いただいたんですね。いや、すごいことが起きたなって。

そして今年2月、タイのバンコクで行われたゴールドプレイの公演も聴きに行きました。そしたらステージから「Arigatou Gozaimasu Kaori」とか言ってくれて。
あれこそ、この30年の中で最もびっくりしたことのひとつかもしれません。
うまく説明できませんがコールドプレイを知る前に向こうから飛び込んできてくださり、ワールドツアーをやってる人たちのその裏側を見れたのがすごい貴重な体験でした。
せっかくご本人に出会えましたから、いつかコールドプレイ作品も弾いてみたいですね。

──すごい話ですね! この30年で一番印象的だったご自身のコンサートといえば?

以前、森山直太朗(シンガーソングライター)さんのインタビューで読んだんですが……直太朗さんのお母さまの森山良子(シンガーソングライター)さんが50年以上のキャリアの中で、どのコンサートが一番良かった? と聞かれたらしばらく考えて、「一昨日の大宮!!」との答えだったそうです。
そういう考え方は素敵ですよね。常に“今”を生きるという。昨日の公演もそうですし、「最新ライヴのコットンクラブ3デイズ」みたく、やっぱり答えたいですね!

──ご自身以外のコンサートで印象的だったものは?

そうですね……。色々あるうちのひとつはフランス留学中に観たローリン・ヒル(アメリカのR&Bシンガー)ですかね。結構前の方でスタンディングでした。
また、最近はK-POPも聴いてますよ。YGエンターテイメント(韓国の芸能プロダクション)から、BLACKPINK(韓国の4人組ガールズグループ)の次に登場した若いガールズグループのBABY MONSTERも好きです。メンバーのアヒョンちゃん、歌唱力も表現力も素晴らしいですし、韓国語、中国語、英語の3カ国語を喋れて耳がめちゃめちゃいいんですよね。

でも、そうしたグループにしても男性プロデューサーの作った世界を彼女たちが表現するという傾向ですよね。どなたかも言ってたんですが、世に出てくる仕掛け人はやっぱり男性が多いのだと。プロデューサーしかり作曲家しかり本当にそう。ある時気づいて愕然としました。これまで私が弾いていた楽曲は99%男性の曲なんだっていうことに特に疑問を持たずに歩んできて。
機会をみて、時には女性作曲家の方にも積極的にお願いしてみようかな? とも考えています。現代作曲家の方だと過去にもアルバムでお世話になりました大島ミチルさんとか。彼女も多岐にわたってテレビ・映画・アニメ・ゲーム・CMなどの映像音楽を多く手がけておられますよね。

──アルバム制作のペースはデッカ側からの提案なのですか? あるいは村治さんからの提案ですか?

そうですね。勿論、先方からもあります。コロナ禍はお互いが無理な状況でしたので、ここ数年新作アルバムを制作していないのもやむなしだったんですが。

──そのデッカとの専属契約も早20年経ちました。

契約の際にロンドンへ行って調印式をしたことを思い出します。英語を沢山使う環境になったことと、アルバムが全世界で販売されるということで、認めてもらえたんだなって。
近年も日本人ミュージシャンでも外国レーベルと契約を結ばれた方の活躍が目立っています。
デッカは、若きイギリス系女性クラシックギタリストのアレクサンドラ・ホイッティンガムさんと契約を結ばれました。レーベルメイトとしていつかお会いしたいです。
デッカでの私のプロデューサーはずっと同じ方なんですが、次作から女性プロデューサーも加わることになるようです。

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プロフィール

村治佳織

(むらじ かおり)

クラシックギタリスト。幼少の頃より数々のコンクールで優勝を果たし、15歳でCDデビュー。パリに留学後、積極的なソロ活動を開始。2003年、英国の名門クラシックレーベルDECCAと日本人としては初のインターナショナル長期専属契約を結ぶ。出光音楽賞、村松賞、ベストドレッサー賞など受賞歴多数。CM、テレビ、ラジオなど、メディアへの登場も多い。2018年リリースの『シネマ』は、第33回日本ゴールドディスク大賞インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。2021年には映画『いのちの停車場』(主演・吉永小百合)のエンディングテーマを作曲・演奏。2023年10月18日にデビュー30周年を記念したベストアルバム『Canon~オールタイム・ベスト』を発売。次回作に向けて鋭意準備中。

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