対談

「日本の劣化」を食い止めるカギは「森のようちえん」にある!?【前編】

宮台真司×おおたとしまさ

「クズ化」してしまった男たち

おおた 達成課題?

宮台 今回のデートはこう組み立てようとか、次のセックスはこうするぞとか。

おおた 目的設定があるわけですね。

宮台 そう。表情とか、体温とか、体の色とか、オーラとかに自動的に反応する力が乏しいからです。これは「言葉の自動機械、法の奴隷、損得マシーン」への閉ざされです。閉ざされたひとを文脈次第で「クズ」とも呼ぶこともあります。

「言葉の自動機械、法の奴隷、損得マシーン」とは、ボットみたいに言葉と法と損得計算の内側に閉ざされた人を指します。これって偏差値的な頭の良さに関係ないどころか、むしろ高偏差値のひとほど深刻な傾向があります。

こういうひとたちをどうしようかと思って、10年くらい前から性愛ワークショップを始めましたが、特に男は言葉を理解しても踏み出せない。「同じ世界」に入って「一つになる」という言葉のクオリア(体験質)が想像できないからです。

それで途中から、誰がそんな子を育てたのだということで、親業ワークショップに変えました。親がすでに「同じ世界」で「一つになる」という体験を知らないのが大半です。そういうダメな親に抱え込まれていたら子もダメになります。

ダメな親が、子を抱え込まずに、「同じ世界」で「一つになる」能力を持つ子を育てる方法なんてあるのか。あるんですよ、というのが僕のワークショップで、その記録が『ウンコのおじさん』(ジャパンマシニスト社)という本です。

おおた はい、読みました。

宮台 その『ウンコのおじさん』の上位互換としておおたさんの『ルポ森のようちえん』がある。だから多くのひとに読んでいただきたい。おおたさんの中学受験の本はいっぱいあるけど、まず『ルポ森のようちえん』を読まなきゃダメだよ。

おおた あはは。実は武蔵という私立中高一貫校の学校説明会で、「おおたとしまささんの『ルポ森のようちえん』を読んでください」って紹介してくれたらしいんです。こういう価値観がわかるご家庭のお子さんたちに来てほしいということですよね。

僕の中では中学受験の本も、森のようちえんの本も、込めているメッセージは同じなんです。そこで森のようちえんがどんな教育をしているのか、知らない方のためにごく簡単に説明しますね。

まず「ようちえん」をひらがなにしていることからもわかるように、正式な「幼稚園」とは限りません。子育てサークルみたいなものも含みます。要するに、園舎の中にずっといるんじゃなくて、毎日、自然の中で過ごすんです。

しかも、たき火しましょう、木に登りましょうと大人が煽動するんではなくて、放牧するんです。森の中を移動するときもお手々つないで一列になったりするんじゃなくて、それぞれの子が好きな道を選んで進んでいく。

たぶん、考えているんじゃないんですよ。自分の通るべきルートが自然にスキャンできるみたいな感覚です。ほら、この写真みたいに、わざわざ岩のゴツゴツしたところを歩いたりする。

森のようちえん「まるたんぼう」の活動風景(撮影:おおたとしまさ)

宮台 これ、岩に「アフォード」されているわけです。

おおた アフォードっていうのは「いざなわれている」みたいなニュアンスですね。能動態でも受動態でもなく、中動態的に。

森の中のような環境にいると、子どもたちの心と体が自然に動き出すんですね。気づいたら虫を追っかけてたとか、気づいたら川をせき止めてたとか、気づいたら棒切れ拾ってるとか……。

大人の意図のない部分で子どもたちが自動的に動き出すっていうことが発生するわけなんですよね。そうやって子どもたちをアフォードする刺激が、もう十全にそこにあるっていうのが森の環境、自然豊かな環境なわけなんですね。

どしゃぶりでも、外で過ごします。雨だってぜんぶ自然の恵みですから。さすがに数時間後には子どもたちもブルブル震えてましたけど、その体感も含めて、森のようちえんです。

宮台 笑

次ページ 自然の中には十全な刺激がある
1 2 3 4 5
次の回へ 

関連書籍

ルポ 森のようちえん SDGs時代の子育てスタイル

プロフィール

宮台真司

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとにニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を博している。著書は『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(いずれも幻冬舎)、『14歳からの社会学』(ちくま文庫)、『社会という荒野を生きる。』(ベスト新書)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『音楽が聴けなくなる日』(共著、集英社新書)など多数。

おおたとしまさ

1973年東京都生まれ。教育ジャーナリスト。1997年、株式会社リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。数々の育児誌・教育誌の編集に携わる。新聞・雑誌・Webへのコメント掲載、メディア出演、講演多数。著書は『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『受験と進学の新常識』(新潮新書)、『麻布という不治の病』(小学館新書)、『いま、ここで輝く。: ~超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版)、『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』『ルポ森のようちえん』(いずれも集英社新書)、『ルポ名門校 ――「進学校」との違いは何か?』(ちくま新書)など70冊以上。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

「日本の劣化」を食い止めるカギは「森のようちえん」にある!?【前編】