「それから」の大阪 第28回

橋の上に現れる屋台

スズキナオ

 木津川にかかる大浪おおなみ橋は、大阪市大正区と浪速区を結ぶアーチ橋だ。JR大阪環状線の大正駅から徒歩7分ほどで橋のたもとまでたどり着くことができる。明治時代から工業地帯として発展し、働き口を求めて沖縄から多くの人が移住してきた地域である大正エリアと、大阪市を代表する繁華街であるなんばエリアを繋ぐこの橋、1937(昭和12)年に完成したもので、長さは81.5メートル。21.7メートルの横幅に4車線の自動車用道路と歩行者用通路が収まり、遠くから見ても存在感のある、大きな橋である。

 その大浪橋の上に、時折、屋台が出現する。歩行者用通路上のアーチを支える柱の幅にちょうど収まるようなコンパクトなサイズの屋台で、あくまで通行の妨げにはならぬよう工夫してあるようだ。

 私がその屋台を初めて目にしたのは、2022年11月のある日のことだった。と言っても、偶然そこを通りかかったわけではなく、その日、橋の上に屋台が出るということを知人のSNSを通じて知り、面白そうだなと見に行ってみることにしたのだった。

 その知人は笹尾和宏さんという人で、建設会社に勤務するかたわら、公共空間の可能性について実践的に研究している人でもある。2019年に刊行された著書『PUBLIC HACK 私的に自由にまちを使う』(学芸出版社)では、路上、広場、公園などの公共空間を、個人がもっと“私的”に、自由な形で活用していけるのではないかという問題提起がなされている。私がライター仲間のパリッコ氏と共に思い付きで始めた「チェアリング」という、アウトドア用チェアを好きな場所に置き、そこに座ってくつろぐ遊びについてその本の中で取材を受け、それがきっかけで知り合った人である。

 その笹尾さんが最近は橋の上で屋台をやっているらしいと、なんとなくは知っていたのだが、詳しいことを聞く機会もないまま、まずは自分の目で確かめてみようと足を運んだのだった。

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 第27回
「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

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プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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橋の上に現れる屋台