「車窓から事故原発が見える常磐線」全線開通の異常性

五輪聖火リレーコースを走ってみた! 第4回

烏賀陽弘道
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 常磐線の車中に戻ろう。

 地図を出して確かめた。原発が見えた地点は、線路が原発にもっとも接近するあたりである。この地点の放射線量を、地元の大熊町が計測して公開している。https://www.town.okuma.fukushima.jp/soshiki/kankyoutaisaku/14150.html

 この資料では「地点番号54 ポポロ西JR跨線橋西端」という名称がついている。私はこの現場まで行ったことがある。「ポポロ」とはかつて国道6号線沿いにあったレストランの名前だ。今は雑草と野生化した灌木に埋もれ、かろうじて看板が見える。「JR跨線橋西端」とは、常磐線の線路上に掛かる橋の端。つまりJRの線路敷地との境界である。

国道6号わきにあったポポロ。6号線と常磐線が最も接近するポイントにあり、大熊町でも一番線量が高い地点(撮影/烏賀陽弘道)

 ここの線量は毎時14.80マイクロシーベルト(2020年3月12日)。原発事故前の約300倍という高線量である。大熊町の測定地点の中でも、もっとも高い。原発直近の大熊町での最高線量だから、日本一の高線量地点ではないか。もちろん除染はされていないし、居住どころか立入りすら禁止されている。そんな高線量の場所を、一日に約20本の普通電車が往来している。特急電車は6本走る。ここを通過した特急電車は東京・品川までやってくる。

 なぜそんな危険な場所を電車が往来していいことになったのか。JR東日本や政府の説明は「線路とその両側のJRの敷地範囲を除染して線量を下げたから」である。

 しかし、これは不可解な論法だ。線路の敷地境界と、その外側をさえぎる遮蔽物は何もない。放射性物質はチリに付着して風や雨にのって移動する。当然、線路敷地の外側から内側にも移動するだろう。電車が通過すれば強い風が起きる。巻き上げられたチリが車両に付着しないはずがない。

 その車両が東京・品川までやってくる。ということは、高線量地帯のチリを帯びた特急列車が東京北西部の人口密集地帯である我孫子市、松戸市、柏市、足立区を毎日6本(3往復)走っているということだ。

大野駅を走る特急ひたち。品川~仙台を1日に3往復している

 心配になったので、東京近郊の常磐線に乗って観察してみた。そうした東京北西部では、常磐線の線路の両側に近接して高層マンションが密集している。常磐線沿線住民への健康対策はどうなっているのだろう。車両の洗浄や、線量の計測はどうなっているのだろう。

 JR東日本に取材してみた。「車両の線量は計測していない」「車両を洗浄したあとの汚水の計測もしていない」「洗浄後の水は放射性廃棄物としては扱っていない」とのことだった。「なぜですか」と重ねて尋ねると、「線路敷地を除染して、政府が安全だという基準値以下であることが確かめてある」とのことだった。

 私から解説を加えると、これはその通りだ。「線路敷地内さえ除染して線量を下げれば列車を通して良い」と政府が決めたのである。しかし、それは「敷地の外側から放射性物質を帯びたチリは一粒も移動しない」という仮定の上に成り立っている。現場を見ている私からすれば、あまりにおめでたい仮定だと言わざるを得ない。

 本来は立入禁止のはずの福島第一原発周辺の高線量地帯に交通ルートを通すという政府の判断は、JR常磐線が最初ではない。まず2014年2月22日に、震災以来通行止めになっていた常磐自動車道の「広野IC ~ 常磐富岡IC」間の通行が再開された。今でもこの自動車道を走ると、道路脇に空間線量の表示板がある。

常磐自動車道上り、双葉~大熊間の空間線量は2020年8月21日時点で2.3マイクロシーベルトもある。ここより福島第一原発に近い国道6号線や常磐線は、それよりも高いだろう

 続けて同年9月15日には、国道6号「富岡~双葉」の通行が再開された。常磐道は原発から約5キロ西に離れているが、国道6号は近いところで約2キロまで接近する。除染も済んでいない高線量の無人地帯に国道や高速道路が通り、トラックが行き交うようになった。このほうが、福島第一原発はじめ被災地の復旧車両の通行に便利だからである。

 今も国道6号のこの区間は歩行者や自転車、オートバイは通れない。自動車は窓を開けないようにと注意書きがある。道路の両側はバリケードで塞がれ、駐停車するとパトカーや警備員が飛んでくる。開通当時、国道が通る区間内の平均空間放射線量は毎時3.8マイクロシーベルト。最大値は毎時17.3マイクロシーベルト(大熊町)あった。最大値は原発事故前の350倍前後である。

 本来、原発から半径20キロの範囲は立入禁止だった。私のような取材記者はもちろん、住民さえ入れなかった。許可証を持たずに入ると逮捕された。放射能で汚染された空間に人や車両が出入りすることを禁じる理由は2つある。ひとつは、外から中に入って被曝しないため。もうひとつは、放射性物質を帯びたチリをつけた人や車両が外部に汚染をばらまかないように、である。 

 こうして振り返ると、2014年以降、本来は人がいるべきではない高線量地帯に、道路や鉄道が開通して毎日車両が出たり入ったりしている。これを許した政府の決定は摩訶不思議というほかない。

 再開したタイミングを振り返ってみる。

 道路=事故から3年  鉄道=9年

 この年数は、政府が最初に決めた「5年」「10年」の復興スケジュールに一致している。つまり、政府は、現実に合わせて計画を作っているのではなく、計画に合わせて現実を捻じ曲げているのである。論理があべこべなのだ。

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プロフィール

烏賀陽弘道

うがや ひろみち

1963年、京都府生まれ。京都大学卒業後、1986年に朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部などを経て、1991年から『AERA』編集部に。1992年に米国コロンビア大学に自費留学し、軍事・安全保障論で修士号取得。2003年に退社して、フリーランスの報道記者・写真家として活動。主な著書に、『世界標準の戦争と平和』(扶桑社・2019年)『フェイクニュースの見分け方』(新潮新書・2017年)『福島第一原発メルトダウンまでの50年』(明石書店・2016年)『原発事故 未完の収支報告書フクシマ2046』(ビジネス社・2015年)『スラップ訴訟とは何か』(2015年)『原発難民』(PHP新書・2012年)     

 
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