プロテストを支える人々
13歳たちの抗議集会の現場に、マスクをしないトランプ支持者風の男性が紛れ込んで撮影をしていた。それを見つけて冷静に話しかける女性。彼女は防弾ベストを着ていた。気づくと彼女の周りにも数名でその男性に対して警戒している存在があった。このような存在は他のプロテストの現場でも常に見かけた。マーチの現場では自転車やバイクで行進の先回りをして、通行車両と交渉するなどの役目をし、いつも人々の安全に目を光らせていた。この縁の下の力持ちの存在に私は興味が湧き、取材を試みた。
この存在も、やはり組織化されたものではなく、mutual aid(相互扶助)の精神によって自主的に市民の中から現れるそうだ。また“ From each according to their ability, to each according to their need.” (それぞれの能力を、それぞれの必要に応じて)という考え方。適材適所で補い合うことこそが、生活のなかからファシズムに対抗できる手段なのだという意識を共有している。
それぞれ皆が、自分に向いていることをする、必要なことをする。コールが向いている人は矢面に立ちコールをし、それを支えるのが向いている人々は裏方として行動する。この美しく有機的なバランス感覚、市民社会から生まれた自治意識。まさにポートランドらしさだろう。これからの時代の民主主義のためのロールモデルのように感じ、膝を打った。
リンカーン像が倒される意味
10月12日はコロンブスデーとされているが、この欺瞞については連載5回目にも書いた。まさにその通りのことが起こった。この日、リンカーンの銅像がポートランド で倒されたのだ。大粒の雨の中、頭を地面に擦り付けるリンカーン像を見た時の衝撃は忘れられない。そして、この奴隷解放の父とされているリンカーン像が倒されることを理解できるかどうかは、ある種、今のアメリカを読み解く鍵となる。
リンカーンの行ったことが不十分だったと今のBLMプロテスターたちは考えているわけだし、問題の追及は黒人への差別だけでなく、もっとその根本の植民地主義へ向かっているのだ。先住民族からすればコロンブスもリンカーンも大差がない、侵略者でしかない。先住民族のプロテストとBLMが結びつき、リンカーン像を倒したのだ。
しかし、トランプ大統領はこれを、プロテスターが暴徒である根拠としてTwitterで拡散した。バイデンが勝つとこうなるぞと印象操作に利用したのだ。ここに大きな理解の溝を感じた。さらにその動画に僕が映り込んでいることに驚いた……。
These are Biden fools. ANTIFA RADICALS. Get them FBI, and get them now! https://t.co/RI9fH6sC1g
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) October 12, 2020
トランプ派との遭遇
いわゆる赤、共和党、トランプ支持者の人々がプロテスターの拠点であるジャスティスセンターの前でブルーラインの入った星条旗を掲げる行動をしていた(青と赤がわかりづらいが、ブルーラインの星条旗は警察支持を表す)。もちろん、手には自動小銃を構えていたし、彼らはマスクをしていなかった。勇気を出して話を聞いてみた。
トランプ支持者の女性に話を聞きました。
なぜマスクをしないのか?
・コロナは風邪のようなもので交通事故の方が危険だ。トランプを支持する理由は?
トランプは株価を上げ、国境に壁を作った。政治家ではなくビジネスマンのように仕事をする。※細かい部分、誰か訳してくれると助かります。 pic.twitter.com/ftmzV1NbfL
— 大袈裟太郎/猪股東吾ᵒᵒᵍᵉˢᵃᵗᵃʳᵒ (@oogesatarou) October 16, 2020
マスクをしないことを「MY BODY MY CHOICE」という言葉で返すことに呆れた。また、別の女性からは「トランプはノーベル平和賞を3回受賞した」という謎の言葉もあった。「コロナより交通事故の方が危ない」というデジャブのようなワードも聞いた。
プロテスターとトランプ支持者のどちらの話も聞いてみると、明確に違う部分が露わになってきた。それは「社会」というものの存在ではないかと思う。個人が社会の中で生き、社会に影響を与え、また同時に社会からも影響を与えられるということ。トランプ支持者はこの「社会」についての認識に歪みがあるように感じられた。彼らの中には「個」というものしか存在しなく、その集合である「社会」というものが欠落しているのではないか? そんな疑念が芽生えた。
15歳の少女からのメッセージ
BLMプロテストの最重要問題である警察労働組合の解体、その取材中に、ある少女たちと仲良くなった。古着を中心にコーディネートするZ世代らしい子たちだった。日本からどうやってアメリカに入ったの?と聞かれて、「まあ忍者のように入ったよね」といかにも日本人的なジョークを言うと、彼女たちはけらけらと笑った。調子良く談笑するなかで「あなたが報道する上で大事にしていることはなんですか?」と聞いてくるので、「人権と反植民地主義です」と答えると、とても喜んでくれて意気投合した。後日、その少女たちのうち、ひとりからきた今回の大統領選についてのメッセージをここに紹介しようと思う。
私は次の選挙でジョー・バイデンを支持します。
私は彼のすべてに同意するわけではありませんが、ドナルド・トランプが持っていない彼の環境政策の多くには同意します。 また、バイデンのヘルスケア計画とコロナに関する彼の計画は、トランプのどの計画よりも米国にとって有益であると私は信じています。
最後に、私にはトランプを信じられる要素が何ひとつありません。彼は女性の生殖に関する権利を奪うと脅迫し、無料の医療や気候変動を信じず、白人至上主義を容認し、BLM運動を支持していません。 彼は多くの残酷な信念を持っており、私自身の中に彼をサポートする要素を見出すことができませんでした。 これらの問題はすべて、次の選挙で最も重要だと思います。
このメッセージを受け取った後に、僕は彼女がまだ15歳だと知った。彼女は今回の選挙に投票権がないのだ。それでもこんなにしっかりと自分の意見を述べてくれたことに驚くが、彼女が特に変わった存在というわけではなく、プロテストの現場にはその年頃の子らは多く集っている。
そして注目してほしいのは、このメッセージの中にしっかりと「社会」が意識されていることだ。さらにその「社会」が人間だけではなく自然環境まで含んだものである点も重要だと感じる。「社会というものは、意識しないと崩れていくのだ」。最近の日本を見て感じていた自分にとっても、ひとつの答えをもらった気がした。
彼女たちが選挙権を持ち、さらには実社会に出てイニシアチブを持った時、その時のアメリカに僕は希望を感じた。彼女たちの横顔は輝かしき未来を予感させていた。
また黒人が殺された、そしてフィラデルフィアへ
大統領選挙の世論調査が出揃い、なんとなくの予想を立てた。バイデンリードと言われているが、やはり読めない。スイングステート、もしくはパープルステートと呼ばれるペンシルベニアがすべての鍵を握っているように思われた。ぼんやりとフィラデルフィア行きのフライトなどを見ていると、その夜、また事件が起こった。フィラデルフィア西部で再び黒人男性、ウォルター・ウォレスJrが警官によって射殺され、大規模なプロテストが起こり、ルーティング(混乱に乗じた略奪、火事場泥棒)まで発生していたのだ。
よりによって大統領選の1週間前に、そのもっとも激戦区と言われる場所で事件が起こるとは……僕は取るものもとりあえず、フラデルフィアへ飛んだ。そこには、とてもバイデンが優勢だなんて言えないようなバイブスが充満していた。市内には州兵が配備され、外出禁止令が出ている。全米各地でトランプ支持者がプロテスターに銃口を向ける事件が起こり、発砲もあった。投票所にはトランプ支持者が銃で武装し待機するという。Red desert or blue forest? 赤い砂漠か青い森か? はたまた選挙結果をトランプ大統領はすんなり受け入れるのか? 選挙はもう明日に迫る。猛スピードで混沌へ突入するアメリカを引き続き最前線から見つめていく。
取材・文・写真/大袈裟太郎=猪股東吾
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