トラウマの時代と疎外感
そんな中、児童虐待の報告件数はついに20万件を超しました。調査開始の1990年より増え続け、30年以上も連続して過去最高を更新しているのです。
暴行事件は昔より減ったとされますが、レイプに関しては、被害者の3~4%しか警察に届けないうえ、警察が3割しか起訴しないという体たらくなので、被害者の99%が泣き寝入りというのが現状です。
示談になると公判が維持できないというのが理由とされていますが、示談に応じたということは罪を認めているのですから、この人たちを起訴して有罪にしないと再犯を行う可能性がきわめて高いのは明らかです。
性犯罪者の再犯が問題にならないのは、被害者の3~4%しか被害届を出さないからでしょう。
しかし、そのトラウマは一生残るかもしれません。
そして激しい疎外感を覚えて生きていくことになります。
治安を守ってもらうために警察に高い税金を払っているのに、人手不足を理由に、これらの被害届をまともに処理せず、交通違反の取り締まりに血道をあげる(人手不足のはずなのに一時停止違反をつかまえるために3人も警察官が一日中立っている交差点はいくらでもあります)事態が改善しない限り、トラウマ社会は解消されないのではないでしょうか?
他人事と思われるかもしれませんが、運悪くトラウマ的出来事を体験したときに、日本では治療できる精神科医はきわめて少ないという現実もあります。
82も大学医学部があるのに、主任教授がカウンセリングなど精神療法を専門とする大学は一つもありません。ほとんどが薬の研究者なのです。
トラウマに限らず、疎外感の精神病理に陥った時に救いが乏しいことは、私まで疎外感を覚えてしまいます。
コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!
プロフィール
1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。