ニッポン継ぎ人巡礼 第2回

ひらかれた産地、「ものづくりの聖地」へ

甲斐かおり

RENEWを歩いてみた

私が初めてRENEWを訪れたのは2018年、4回目の開催時だった。その日はRENEWのシンボルデザイン、赤い水玉模様が、ポップやショーウインドウなどあちこちに貼られ、河和田のまちがとても明るく映った。

垢抜けた格好の20〜30代が大勢、田園の中をぞろぞろ歩いている。

河和田の街中の拠点「PARK」。(撮影/Tsutomu Ogino)
河和田地区の「うるしの里会館」がRENEWの受付会場になる。受付をしてマップを受け取り、各自で好きなエリアを回る。それだけならお金はかからない。会場は大きく「越前漆器&メガネエリア」「越前和紙エリア」「越前打刃物&越前箪笥エリア」「越前焼エリア」「眼鏡エリア」「眼鏡&繊維エリア」と6つに分かれている。(撮影/Tsutomu Ogino)

河和田の錦古里漆器店を訪れると、錦古里正孝さん(当時65歳)が漆塗の弁当箱をつくるワークショップで手ほどきしてくれた。ベテランの漆塗り職人がふだん自分が座って作業している場所に素人の私を座らせ、惜しげもなく道具を貸し漆塗りを実体験させてくれる。

錦古里正孝さん(撮影/Tsutomu Ogino)
錦古里さんはRENEWに関わるようになり、ショップとワークショップ専用の部屋を工房脇に常設した。(撮影/筆者)

さらに河和田から車で20分ほどの越前市今立地区「和紙の里」では、13の製紙所や問屋、工房がRENEWに参加していた。

それぞれの工房では、和紙づくりの実演が行われていたり、職人が案内してくれるミニツアーがあったり。ふらりと入って見学できる自由さと素朴さもある。

細い川沿いに風情ある和紙漉き工房が軒をつらねる。紙の神様をまつった大瀧神社は威厳があり、界隈を歩くだけでも紙漉きの町の風情を楽しめる(撮影/筆者)
滝製紙所(撮影/Tsutomu Ogino)
長田製紙所(撮影/Tsutomu Ogino)
工房脇の店舗では、完成品を購入することもできる。特殊な加工をされた和紙やデザインを施したトートバックなど、都市部のセレクトショップではなかなか手に入らないような物が置いてあり、レアなものを探す楽しみもあった。(撮影/筆者)


「来たれ若人、ものづくりのまちへ」

とはいえ、RENEWはあくまで期間限定のイベントにすぎない。どこまで実質的な売上に影響があるかといえば、現状、イベント3日間の売上2700万円以外、数字としての成果は見えにくい。

ただ取材をしてわかってきたのは、このイベントはただのマーケットイベントではないということだ。目的は出展者の売上アップではなく「産地の持続性を高める」こと。イベントを機に気運を高めて、産地を時代に合わせてアップデートし、若い世代との接点を取り戻す。あくまでキャッチコピーは「来たれ若人、ものづくりのまちへ」なのだ。

実際にイベントを通じて「あかまる隊」と呼ばれるボランティアの活動が活発で、年間を通じて地域内外の若い層が多く関わりコミュニティ活動が続いている。これには3年目から関わるようになる森一貴さんという、事務局をまわしてきた秀逸な人物が大きく寄与している。森さんが用意した「森ハウス」というシェアハウスを入り口に、あかまる隊に入ったり、鯖江へ移住する若者が増えている。

さらにRENEWの実行委員会では、3年前から「産地の合説(合同説明会)」という就職斡旋の活動も始めている。ものづくりを志す若者と、小さな工場や工房のマッチング。早川さんに手紙を送った女性のような人が、産地の企業にオファーしやすくなるしくみづくりである。

<公式サイトより>一番左が森一貴さん。RENEWはあかまる隊によるボランティアに支えられている。(撮影/Tsutomu Ogino)

そうしたさまざまな取り組みの結果、何が起きたかといえば、出展者の間で自社製品をつくり、販売するためのショップを工房に併設する動きが加速していったのである。

和包丁の柄を製造してきた「山謙木工所」が新たに立ち上げたブランド「柄と繪(etoe)」が2020年工房に併設したギャラリーショップ(撮影/Tsutomu Ogino)
2016年にオープンした「漆琳堂」のショップ内(撮影/Tsutomu Ogino)
2020年にオープンした「土直漆器」併設のショップ(撮影/Rui Izuchi)
土直漆器の店内(撮影/Tsutomu Ogino)
TSUGIが2019年4月にオープンしたSAVA!STORE(撮影/Kenta Hasegawa)
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プロフィール

甲斐かおり

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)

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