ニッポン継ぎ人巡礼 第2回

ひらかれた産地、「ものづくりの聖地」へ

甲斐かおり

「若いやつらはみな気になっている」

「RENEWはずっと気になっていたけど、吹き付け塗装は手塗りと違って伝統工芸の枠には入れてもらえんし、塗装は仕事場も汚いし、同業者に設備を見られるのも嫌だしで、なかなか一歩が踏み出せなかったんです。だから僕自身参加するまではすごく閉鎖的でした。お店なんかできんって思ってましたし」

そう話すのは、漆器の吹付塗装を行う丸廣意匠の廣瀬康弘さん。前述の井上さん同様、RENEWに参加しづらい中間加工業である。

「基本僕らは黒子なんですよ。名前を売って商売するのは問屋さんであって、僕ら製造者の技術が問屋さんの売りでもある。それが表に出ちゃうのは嫌がられますからね」

丸廣意匠の廣瀬康弘さん。(提供/RENEW実行委員会)

それでも3年前、2019年からRENEW参加に踏み切ったのは何故だったのか。

「一緒になって生き残っていこうと思える取引先を見極めるいい機会だと思ったんです。うちがRENEWに出展して、あいつ頑張ってるから応援しようという問屋なら、僕は手ぇ真っ黒になってでもその人のために仕事しようと思える。利用される関係ではないってことです」

2022年3月のRENEWで丸廣意匠にはトレイや器、花瓶などにカラフルな吹き付け塗装をほどこした品々が並んでいた。ライトブルーやオレンジ、ライムグリーンなど若い人たちに好まれそうなポップな色だ。

型落ちのデッドストックなどに塗装を施して再生させる「MARUHIRO SPRAY」。デザイナーのとのコラボレーションなども行っている。(撮影/Tsutomu Ogino)

「移住者の新山くんとか、木地師でろくろ舎の酒井くんにはすごく力をもらいました。彼らは産地のしがらみとか、問屋との状況とか全くわからん中で、どんどんやりたいことをやっている。それが俺らに火をつけたというか」

廣瀬さんと同じように、ほかの組合の若手にも、RENEWの動きが気になっていながら動けずにいる人も多いという。

「昨日も2人、組合の若手が見に来ました。彼らもめちゃくちゃ気になってるんですよ。僕の展示が少しでも彼らの刺激になればなって思います。

これまで河和田は、分業制で大きく発展してきました。産地の規模が小さくなろうとしている今、逆にそれが弱点になっているのかもしれん。でも産地全体のつながりを生かすにはRENEWのような動きが欠かせない。そうでないと生き残れない。やっぱし子供らに、自分の仕事を自信もって楽しいからやってみればって、言えるといいなと思うんですよね。こんな仕事やめとけとは言いたくないじゃないですか」

RENEWの出展社数はここ数年大きくは変わっていない。2022年3月時点では越前漆器で20社、越前和紙で17社、越前打刃物で5社、越前焼きで5社、眼鏡11社、越前箪笥で3社、繊維で3社。産地全体の割合でいうと参加社数はわずか。

だが外から入ってきた同世代から刺激を受け、新しい意識が醸成される。外の目線と地元のやり方が入り混じる中で、硬直化していた産地の空気が動き始めているのは間違いない。

福井にU・Iターンした若手で構成される一般社団法人「PARK」。1階が週末限定のカフェで、シェアハウスも運営されている(撮影/Tsutomu Ogino)


RENEW前夜

2022年3月9日。第7回目のRENEW開催予定日の3日前。出展者が集められた事前説明会の場は、緊迫した空気に満ちていた。事務局の女性は、おそらく十分寝ていないのだろう疲労感のにじむ顔で一生懸命、感染対策について説明している。この日、福井県は県内の新型コロナウイルス感染急拡大を受け、独自に出している「警報」を「特別警報」に引き上げたのだ。

「でもRENEW は、協議を重ねた結果開催しようという結論になりました。その詳細を説明させていただきます。」

実行委員長の谷口さんは、感染状況が家庭内感染により広がっていること、県知事からも開催を認める発言を得ていることなどを説明した。RENEWを止めないことは、全国のものづくりに関わる人たちへのエールになるとも。

現地に居た私はみんなの必死な姿を見て、彼らにとってRENEWはただ品物を売るとか、その日だけ産地を盛り上げるといったイベント以上の、大きな意味をもつのだなと感じていた。

2022年3月9日に行われた出展者向けの事前説明会(撮影/Rui Izuchi)

結果、2022年3月11日から13日まで開催された第7回目のRENEWは、3日とも晴天に恵まれ、予想以上の盛況に終わった。

若い人たちの見る鯖江のイメージは着実に変わりつつある。移住者はここ5年ほどで100人以上にのぼる。

2024年春の福井への新幹線開通も見据えて、RENEWの実行委員会は、通年型の産業観光を促進する「一般社団法人SOE(ソエ)」の設立を2022年8月に発表した。

若い人たちを魅了する「ものづくりの聖地」をめざす試みはこうして続いている。

(撮影/Tsutomu Ogino)

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プロフィール

甲斐かおり

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)

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