韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第4回

6月、映画でふりかえる「6・25朝鮮戦争」

映画『ブラザーフッド』『戦火の中で』『スウィング・キッズ』『高地戦』等
伊東順子

2.北朝鮮軍の猛攻撃と後退する韓国軍、 洛東江の攻防戦(1950年8月) 

 

 北朝鮮軍の侵攻は、まさに破竹の勢いだった。驚いた米国は国連の緊急安保理事会を招集、北朝鮮の侵略行為を非難するとともに、7月には米国主導で「国連軍」(国連旗の使用は認められていたが、実質的には米軍が中心の多国籍軍)を結成した。

 その国連軍も北朝鮮の猛攻を前に後退を余儀なくされ、追い込まれた韓国政府は8月初めには、釜山を臨時首都に制定する (1950年8月18日~10月26日、1951年1月4日~1953年8月14日) 。

 もはや釜山を残すのみ。文字通りの「最後の砦」を守るために、韓国軍は洛東江(ナクトンガン)の流域で激しい防衛戦を行う。そのうちの一つである「浦項の戦い」をベースにしたのが、『戦火の中へ』(2010年、イ・ジェハン監督)という映画である。

 人気俳優クォン・サンウとBIGBANGのT.O.P(チェ・スンヒョン)の共演。T.O.Pにとっては本格的な長編映画出演は初めてであり、大きな話題となった。それもあって興行的にも大成功、彼は好演が認められて、この年の各種映画祭で新人賞を受賞した。

 

映画『戦火の中へ』

 

あらすじ

朝鮮戦争開戦の1950年6月25日から一ヶ月余りが過ぎた8月。北朝鮮軍の猛攻にさらされた韓国軍は、ソウルを失った後もなお敗走を余儀なくされ、最後の砦たる洛東江の戦線を守り抜くため、残る全兵力を投入しようとしていた。

それに伴って浦項から洛東江に向かうことになったカン・ソクテ大尉(キム・スンウ)は、やむなく71人の学徒兵に不在中の守備を託すことになる。しかし北朝鮮軍の冷酷非情なパク・ムラン少佐(チャ・スンウォン)率いる精鋭部隊が、浦項をめざして電光石火の進撃を開始。

カン大尉から中隊長に任命されたジャンボム( T.O.P )、彼と対立する不良少年ガプチョ(クォン・サンウ)ら71人の少年たちは突如として迫ってきた強大な敵軍との命がけの戦いに身を投じていくのだった……(TOHOシネマズ公式サイトより)

 

 実話ベースの映画であり、ヒントとなったのはこの時に戦死した学徒兵の手紙だった。「お母さん、私は人を殺しました」で始まる母親宛の手紙には、当時の中学3年生の学徒兵が戦場で感じた複雑な胸の内が、非常にしっかりとした文体で書かれている。

 

 いくら敵とはいえ彼らもまた人であることを思うと、そしてさらに同じ言語と血を分けた同族であることを思うと、やりきれない、重い気持ちになります。

 お母さん、戦争は何故しなければならないのですか? 

 この複雑でつらい心情をお母さんに伝えれば、気持ちが落ち着くような気がします。

 私は怖いのです。

 お母さん、私は必ず生きてお母さんのもとに帰ります。

(学徒義勇軍イ・ウグン兵士の手紙から抜粋・拙訳)

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プロフィール

伊東順子

ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。

 

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